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同性婚禁止は違憲!という朗報からの3つの考察

戸籍訂正済のトランスジェンダー新井光です。
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2021年3月17日に札幌地裁が「同性婚禁止は憲法違反」であるという歴史的判決をした。札幌以外にも、東京・大阪・名古屋・福岡でも同様の裁判が行われているが、いろんな地方で原告側たちは悲鳴を上げているのを聞いていた。期待と不安が入り混じる中、判決結果を聞いたときは心が震えた。
2004年に性同一性障害の特例法が施行され、
2015年のLGBT元年から6年がたった。
2015年にパートナーシップ制度が渋谷区・世田谷区で導入がスタートして、
2021年3月現在で79の自治体でこの制度を導入している。

歴史は大きく動き始めたのだ。

裁判の判決としては、原告の請求を棄却するというものだったにもかかわらず、【実質的な勝訴】とされているのはなぜか、ということについても触れていきたい。
裁判の主文というか判決内容って法律用語が多くて、とっつきにくいというか難しいしわかりにくい。僕は法学部とかではないし、法律に詳しいわけではないけど、今回の裁判の情報に触れて少々勉強したのでアウトプットしてみる。憲法〇条とか、解釈の問題とかは難しすぎるのと、政治に絡むことだから発信するのは賛否両論あると思うけれども、できるだけ簡単に書いていきたい。

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この裁判は、ざっくりいうと以下3つがポイント。

1.法の下の平等とは
2.婚姻制度の力
3.裁判長の人間力

それぞれ書いていこうと思う。


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1.法の下の平等とは

同性婚が禁止されている、というか婚姻届を提出しても不受理となってしまうのが今。「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するから、というのが却下・不受理にする理由だそうだ。
これは、法の下の平等といえるのだろうか。両性の合意ってさ、結婚するのは、男と女っていう組み合わせだけだ!というのが前提にあるのが、今の法律である。両者の合意、とかでよくないかなと思う。
今回の裁判では、そのことを主張するために、裁判長が道筋をたてて導いてくれた。

・性的指向は、人の意思によって選択したり変更したりできない。
・昔(明治時代)は同性愛は病気とされていたこと、婚姻の目的が男女が共同生活を送ることにあって子供を残すことのみが目的ではない。
・パートナーシップ制度を導入する自治体が増えた。
・諸外国でも同性婚を導入している国が増え、日本は法整備が遅れてる。
・世論は同性婚に賛成しているという実態。

これらにより、同性婚がみとめられないことは、法の下の平等とはいえない、合理的な判断要素であるということである。もう拍手喝采の見事な導線だ。

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2.婚姻制度の力

僕は以前、結婚していた。既に離婚して2年経つけど、子持ちの女性を配偶者にすることができた。それは、「性同一性障害の特例法」により戸籍上の性別訂正をしたことで、男の戸籍を得ていたからできたことだ。性的指向が女性であった僕は、女性と婚姻関係を結ぶことができたのだ。

婚姻関係にあると法的にいろんなお得なことがある。
税制上の優遇とか、相続のこととか、住宅ローンの共同名義のこととか。
小さなことでいうと、役所関係の書類を取得するときとか、子供の保育園のお迎え問題とか、入院したときの面会や手術などの代理同意とか。
長期的な部分だと、老後の暮らし方で認知症になったときの財産管理とか。


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あと、もっと小さな話題を一つ。


昔、コールセンターで働いていたときのことを思い出した。コールセンターに電話をすると、ほぼ毎回、本人確認ということをされると思う。問い合わせをする前に、名前・住所・電話番号・生年月日などを聞かれて、それらに正しく答えることで本人確認ができる。そのうえでようやく、登録しているサービスについて開示して答えていくよっていうスタンスがコールセンターだ。
例えば、通信系コールセンターで、契約名はご主人の名前、問い合わせしてくるのは配偶者である奥様。その場合には、夫婦だから本人確認OKということもあるが、夫婦で一緒にいるときに電話をしないと受け付けさえしてもらえないこともある。しかし、夫婦というだけでOKだったことが、離婚したとたんNGになる場合もあった。
以下のような例は、収拾がつかなくなってしまうけど、紹介したいと思う。


サービスを解約したいという問い合わせの場合。契約者名は、ご主人。電話してきたのは、離婚した元奥様。サービス料金は、元奥様の口座からの引き落とし。離婚してから数年たつのにまだこのサービスの料金が毎月引き落とされている。早く解約してほしいと元旦那さんへ連絡を入れているが、仕事が忙しいということで一向にしてくれない。しぶしぶ元奥様が電話をしてきた。しかし、本人確認の部分で不一致が起こる。既に離婚しているということは、赤の他人からの問い合わせなのだから、本人確認できてないという状況になる。ということは、解約手続きは電話では受けられない、という闇に突入してしまうのだ。今はネットでの手続きが普及しているから、オペレーターさんが上手に誘導すればWEB解約などの手続きもスムーズだと思うんだけど、ひと昔前まではスマホの普及もまだまだだったので、結構クレームに発展する確率は高かった。でもよくある問い合わせのパターンとしてコールセンター自体もオペレーターたちも認識をしていて、対処方法なども把握していたのだ。

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さて、これを同性愛者のパートナーに照らし合わせてみよう。
まず、同性カップルの場合、そもそも夫婦・配偶者として認識はされない。なので、契約者の名前が男性Aさん、問い合わせしてきている人も男性だけどBさんという名前なので一致しない。これは別人だから、本人確認はNGだという認識になってしまう。事実婚をしているカップルなのです、ということが通用しないのだ。ここでもし、BさんがAさんの名前を名乗ってしまえば本人からの問い合わせということにもなるのだけど(電話では顔は見えないから)、それは詐称になってしまうのでみんな正直に言ってくれるのだ。
これは、最初から「赤の他人」という認識をされてしまうという苦しみにがある例だ。サービス提供をする企業側の問題でもある。
別の視点からの話もあるけど、それはまた別記事にしようと思う。


このように、婚姻関係で受けられているメリットは、思いのほか多いのに、結婚したい相手が同性であるというだけでこのメリットを受けられないのは、間違いなく不平等である。婚姻という法的な力は、紙一枚のことではなく、想像を超える恩恵があったのだということにも気づかされた。与えられていた当たり前の幸せを、同性同士のカップルでも同じように感じられる。そんな優しい社会になっていくことを切に願う。

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3.裁判長の人間力

今回の裁判で一番注目され称賛されたのは、判決を下した裁判長の人間力であろう。「武部知子」裁判長である。
原告側の当事者たちはストレートに言葉にすることはなかったけど、東京裁判の裁判官の態度と比較すると、まさに神対応だったのが札幌地裁の武部裁判長なのだ。
東京の田中寛明・裁判長の姿勢は、こんな感じだった。

・本人尋問は、「夾雑物(余計なもの)」だから、原告の思いを直接法廷で聞く必要はない。
・同性婚が認められていないことが憲法違反であるかどうかという法律のあり方が一般論として問題になっているため、原告の個別の事情は関係しない

要するに、原告側は事情説明をする場を与えられなかったということだ。話を聞いてもらえず目も合わせてくれなかった、ときいている。

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これとは対照的に、札幌地裁の武部裁判長は、まっすぐに目を見て傾聴の姿勢を示してくれて原告側の心の痛みに寄り添ってくれた。そして、それをしっかりと受け止めてくれて、あの名判決に至ったのだ。人間力の高さがにじみ出ていた。
難しい言葉だけど、判決文の一部を引用してみる。

同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に斟酌すべきものである。

*参考(ハフポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6051715cc5b6f2f91a2d567e?ncid=tweetlnkjphpmg00000001


ちょうど昨日3/20に、司法書士主催のオンラインフォーラムにて、明治大学の鈴木教授がパネリストとして出席しており、このような解説をしてくれていた。とてもわかりやすかったのでご紹介したい。


鈴木先生も明確に、同性婚を法制化するにあたって、否定的な意見は古い考えだし、多数派だからって関係ないよねっていうことを示されたのだ。

武部裁判長の高い人間力から、きれいな導線を経て今回の実質的な勝訴をかちとったといえる。しかし、まだひとつの地方裁判所の判決という段階である。今回の裁判では、原告側は控訴する(もっと裁判を続ける)とのこと。何故かというと、最高裁で同じような判決を出せば国も動くし、ほかの地方裁判所などの判例になってそれに従うようになって、法改正への道が拓けていくからだ。武部裁判長のこの名判決によって、歴史が大きく動こうとしている。

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◾️結婚の自由がすべての人に与えられたら

今、パートナーシップ制度を導入している地方自治体は79あるけど、その制度には法的な効力はない。結婚の自由がすべての人に与えられたら、どんなことが考えられるのかを書いていきたい。

A.同性愛者だけの問題ではない
B.未オペのトランスジェンダー
C.Xジェンダー、性別の考え方

【AとBについて】
今の婚姻制度だと戸籍上の男女しか結婚ができない。しかし、同性婚ができるようになると、まずは同性愛者(ゲイ・レズビアン)のカップルは結婚できるようになる。
それに加えて、手術をしていないトランスジェンダー(=以下、未オペトランス)は戸籍訂正ができないので、戸籍上の性別は生まれ持った性のままだ。なので、パートナーや性的指向が戸籍上同性の場合は結婚ができない。ところが、同性婚できるようになると、未オペトランスも戸籍上同性のパートナーと婚姻関係を結べることになるのだ。
さらに言うと、戸籍訂正済のトランスジェンダーで、性的指向が同性の場合も婚姻関係を結べる。複雑なので少し深堀してみる。例えば、生まれ持った性は女性、性自認は男性、手術などをして戸籍上の性別を男性に訂正した。そんな彼の性的指向が男性の場合は、同性愛者になる。彼とそのパートナーである男性は、戸籍上は男性同士なので、今回の裁判によって同性婚できるようになると結婚できるということだ。

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【Cについて】
今、性別は男女の2つだけではなく、Xジェンダーという性自認をもつ人がいる。男でも女でもない、男でも女でもあるというような、性別がグラデーションされている人の場合、自分が男なのか女なのか、どっちなのか、どっちでもあるという立ち位置なので、パートナーが男であっても女であっても、同性愛なのか異性愛なのかがはっきりしてないのだ。
なので、すべての人に結婚の自由が与えられたら、そういう苦悩からは解放されることになる。当事者もパートナーも、だ。


このように、結婚の自由がすべての人に与えられたら、様々な性の悩みを抱える当事者の問題の一部である、結婚についての問題はほぼほぼ解消される。結婚するしないは、個人の選択の自由だし、その選択権を与えられているということが大事なポイントなんだと思う。

以上、
同性婚禁止が憲法違反であるという判決から、3つの考察をしてみた。


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#結婚の自由をすべての人に

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