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何もかも説明してもらえると思うなよ!~杉江松恋 × 豊崎由美、『朝倉かすみリクエスト! スカートのアンソロジー』(光文社)を読む~

2021年10月のフィクション部門は『朝倉かすみリクエスト!スカートのアンソロジー』です。朝倉かすみさん自身を含む9人の作家が「スカート」のお題の短編を執筆。出来上がったアンソロジーは、どの短編も出色の出来。「小説宝石」に連載されてました。
「スカート」というテーマを聞いたとき、豊崎社長は「勝ったな!」と思ったとのこと。
杉江さんは「小説宝石」連載中から愛読、2020年9月号は佐藤亜紀・藤田可織の2作品が同時掲載となったことを覚えています。この号は町田康、藤崎翔も執筆する非常に豪華な号で、Twitterで紹介したそう。
この本がベストセラーになることを願って、対談では9作品全部を丁寧に説明していきます。
※対談は2021年10月27日に行われました
※対談はアーカイブで視聴可能です

お涙頂戴にしない力量(朝倉かすみ『明けの明星商会』)

このアンソロジーは発表順に本に入っており、対談も掲載順に進んでいきます。トップバッターはリクエストを出した朝倉かすみさんの『明けの明星商会』。埼玉県和光市にある持丸商会に1987年、同期入社した3人の女性が仲良くなり、でも、うち2人は途中退社して、五十路となり、最後まで勤めていたコマちゃんがガンで亡くなり…、という一見よくある話なのですが、豊崎社長が感心したのは、お涙頂戴にしない力量。豊崎社長が読み上げた一節。

わたしとコマちゃんとアヤチョは、愉快そうに笑ったり食べたり飲んだり歩いたり、喋ったり歌ったりしているのだが、断片ばかりという気がする。断片はかき集めて組み合わせたら完成するパズルのようなものではなく、途切れることなく降ってくる雨みたいで、なにやらわたしに染んでいくのだった。

そういえば、この対談の日の昼間、杉江さんは、この作品の舞台の和光市で玉川太福さんの浪曲公演に行かれていたのでした。

短編を読む訓練にも最適

対談では9編全部を丁寧に紹介していきます。特に2人が驚いたのがエッセイスト北大路公子さんの作品。エッセイでは非常に地に足の着いた作風で知られる北大路さんですが、この作品は宙に浮いた不安感を出しています。普段Twitterで見るケメコ先生とは全く違う、虚無感を感じる小説。

佐藤亜紀さん、藤野可織さんはお二人の力量をいかんなく発揮した作品。豊崎さんは佐藤亜紀さんの「トマス・アデリン」偽史を連作化してほしいといい、杉江さんは藤野可織さんの「青木きらら」が出てくる小説をまとめて単行本にして欲しいといいます。

良い短編を読むことは読書の訓練にもなると豊崎さん。短編は省略があり、読み手は作家に「何もかもかもは説明してはもらえない」ということがわかります。

他の作品紹介もすべて面白く、ユーモアにあふれるもの、心が温まるもの、心が冷え凍るもの、いろいろな作品の楽しみ方をお二人が指南します。詳細はぜひ動画で!

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参加者からの「どんな題でアンソロジーを編みたいか」と聞かれたお二人。杉江さんはかつて丸谷才一が編んだ『丸谷才一編・花柳小説傑作選』のような「花柳界」のアンソロジーに興味があるとのこと。

豊崎さんは「実在の人が出てくるフィクション」のアンソロジーを作りたいそう。そのアンソロジーには中島京子さんの『本校規定により』も入れてほしい。中村獅童がちょこっとだけでてきます。

【記事を書いた人:くるくる】

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2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
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