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彼は宇宙人かも知れない

少し前に彼の家に泊まった時のことだ。
私たちはシングルベッドに身を寄せ合って寝ていた。夜中に突如、隣で寝ていた彼が体を起こして大きな声で寝言を言い始めた。
寝言を言うこと自体は何の問題もないよくある話である。しかし、彼の場合は一点だけ気になることがあった。

寝言がそもそも言葉になっていなかった。

もし今、このnoteに彼の寝言を表記するならば、

「jぱö×s€、μddが⭐︎iβmn!!!」

こんな感じだろう。つまり日本語でもなければ、英語でもない、もはや見知らぬ何かの言語という感じで全く意味不明だったのである。
私は寝ぼけながら「あれ、日本語じゃない、わけのわからない音を発しているな…」と思ったが、その時はあまり気にも止めずにまた寝てしまった。しかしよく考えてみれば実に奇妙だ。
あれは一体何だったのだろうか?

寝言というのは、もっぱら母語であろう。なぜなら夢の中の延長で言葉を発するからである。よく外国語学習者が「勉強している言語で夢を見たら一人前だ」などと言っているのを耳にする。夢はよく使う身近な言語、すなわち母語で見るのが一般的だろう。
つまり、日本語でない時点で相当によくわからないことが起きていることになる。彼は純日本人であるし、私が見る限り何か他に得意だったり勉強中の言語があるようには見えないのだ。

その日朝になってふと彼に聞いたところ、彼は悪い夢を見ていたという。隣人がベランダの窓からこちらを覗いていて、それを追い払うために大きな声をだしたそうだ。
マンションで最近一人暮らしを始めた彼は、あまり大きな音を立てていないのにもかかわらず隣人に壁をトントンされることがあった(とはいえ彼は自覚していないものの、基本的に声が馬鹿でかいため、多分うるさくしてしまっているのだと個人的には思う)。以前から彼はお隣さんが怖い怖いと話していたのである。泊まった日も、二人でなるべく音を立てないように注意を払っていたため、そうしたのが夢に出てきたのだろう。

このような夢の内容から考えると、やはり日本語でないのが不思議である。彼は自分が現実に住んでるマンションで、現実にある隣人との関係における夢を見ている。つまり何やら非日常のような、現実離れした内容では全くないのであり、基本的には日本語を用いる場面の夢を見ているのである。

あまりの恐怖にもはやよくわからない奇声を発したのだろうか?それも考えにくい。「わああああああ」などというような、咄嗟に出てくる単純な叫び声が発せられるのならばわかる。しかし、確かにあの夜聞いたのは、もっと複雑でいろんな音が混ざっていた。やはり何かを言おうとしている意思が感じられる。

寝ながらよくわからない言葉(音)を発することはよくあることなのだろうか?でもやはり不自然だ。ゴニョゴニョと不明瞭な言葉を呟いているのならまぁ寝ぼけてるんだろうとわかるのだが、あの時の彼ははっきりと大きな声で発音していたのだ。

何だか薄気味悪くなってくる。ちょうどTVドラマ『岸田露伴は動かない』を見たあとだった私は、奇妙なホラーに対して敏感になっていた。

気になってネットで調べてみる。
「寝言 意味不明 言語」
ヒットしたものをみてみると、前世の記憶がどうのとか、憑依現象がどうのとか、たくさん出てきた。Wikipediaによれば、もしも彼の寝言がなんらかの言語であるならば「真性異言」と言うらしいが、その具体的な内容はやはりザ・オカルトといったものだった。いや、こわいこわいこわい。

彼は一体何者なんだろうか?
ここまでくると、彼は本当は何か得体の知れない宇宙人なんじゃないかと思えてくる。
彼の正体を突き止めるべく、私は今日も彼の家に泊まりに行くのであった。

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