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多様性あふれる「世界青年の船」で見つけた人生の航路|ALiveRallyインタビュー#4

今回は国際教養大学(AIU)13期の井出夕貴(いで・ゆうき)さんに世界青年の船(SWY)での経験についてお話を伺いました。一ヶ月間インターネットが使えない船の上で世界各国から集まった240人との「密」な国際交流体験に飛び込んだ夕貴さん。新たな環境に飛び込み続ける超アクティブな夕貴さんですが、その裏にはそんな彼女ならではの悩みがありました。多様なバックグラウンドを持つ人々に囲まれて過ごす中で見つけた自分らしい挑戦のスタイルと他者への寛容性。異文化交流の価値が濃縮されたSWY体験談を夕貴さんのレンズから覗いてみましょう!

基本情報
名前:井出夕貴(いで・ゆうき)さん
AIU入学時期:13期春入学(2016年春)
活動内容:世界青年の船
活動場所:船の上、ハワイ、メキシコ
インタビュー時期:2021年10月

世界青年の船 〜その船、「密」です~

ーーまず参加したプログラムについて教えてください。

はい。参加したのは世界青年の船(Ship for World Youth: 以下SWY)という内閣府の国際交流事業になります。日本と世界各国からそれぞれ18-30歳の120人、合わせて240人で1ヶ月の船旅をするプログラムです。毎年行先は違うんですけど、私達のときは給油地がハワイで研修場所がメキシコでした。

ーー船や行先ではどのように過ごしていましたか?

1ヶ月の間、環境・平和学・テクノロジー等のテーマに沿ったディスカッションや、世界各国の参加者がダンス、歌、民族衣装を用いて自国の文化をステージ上で紹介するプログラム等がありました。1ヶ月電波がなくてスマホも使えないから船の中の参加者と交流するしかなかったのが印象的です。部屋は日本と海外の参加者が混合の三人部屋で、部屋の中でも誰かと話しているみたいな。もともと人と仲良くなるのはあまり得意ではないのですが、こうした環境のおかげで、だいぶ他の参加者と仲良くなれたのかなと思います。

ーー普通の留学などと比べて、世界青年の船ならではの体験や他との違いはどんなところですか?

1か月も電波のない船の上で「密」に過ごして交流できるところがSWYのユニークさであり1番の価値かなと思います。その中で生まれる何気ない会話に新鮮な刺激とかワクワクがありました。中でもバーレーン人の子との恋バナは印象に残っています。彼女には好きな人がいたんだけど、それぞれスンナ派とシーア派で宗派が違ったらしいんです。バーレーンはマイノリティであるスンナ派が政権を握っていて、軍人になれるのはスンナ派のみなんです。それでその彼はスンナ派の軍人だったんだけど彼女はシーア派。軍人の奥さんやその家族はスパイになり得る危険性があるから「違う宗派の人とは結婚できない」っていうルールがあるみたいで、それで失恋しちゃったっていう。その話を聞いてすごい「切ない!」と思って(笑)

ーー現代版ロミオ&ジュリエットみたいですね、家の違いじゃなくて宗派の違いですが。

そう、好き同士だったら結婚させてあげればいいのになと思いましたけど、確かにスパイの人が紛れる可能性は捨てきれないと思いましたね。実際、違う宗派の人が軍人の奥さんになったら色んな情報聞き出しちゃったりできそうですよね(笑)

ーーめっちゃハリウッド映画みたいな話!!

Ms. 異文化交流 ~多様性の中に生きるマインドセット~

ーー夕貴さんは小さい頃からSWYのような国際交流などの活動に積極的に参加していたんですか?

ずっと海外に対する憧れはあり、英語も子供の頃から好きでした。小さい頃からディズニーがとても好きで、それから洋楽や海外ドラマにもハマっていました。中高生時代も市が主催するホームステイや学校の国際交流プログラムに参加していました。大学ではRA(Resident Assistant: 1年生と同じ寮に住み各種サポートやイベントの企画などを行う)や学校祭の執行部を務め、ダンスサークルにも所属していました。留学先でも、普通は現地学生しか参加しない寮のキャンプやボランティアにも、留学生の中で私だけ勝手に申し込んで参加しました。旅行も好きで今まで29か国回りました。東南アジアのASEAN諸国は全部行って、あとは1人で2週間ほど東ヨーロッパと中央ヨーロッパも回りましたね。学生時代から色んなものに飛び込んだりとか、色んな人と話したりするのは好きだったと思います。社会人になってもミスコンに出てみたりとか、女性で起業したい人向けのセミナーに参加してみたりとかしています。

ーーそうなんですね。新しい環境に飛び込むというのは楽しいだけではなくて、大変なことも多いかと思います。それでも新しい経験を求め続けるのは何か理由があるのでしょうか?

確かに慣れている環境で価値観が似ている人と一緒にいた方が仲良くなれるし落ち着くと思います。でも私は似ている人とばかりいると、視野も狭まりそうだし新しいものを得られないと思ってしまうんですよね。そうなるのが怖いので色んな人と関わっていたいなと思っています。様々な人が集まるAIUに在学して自分の中の偏見は少なくなったと思っていましたが、まだまだ偏見を持っている、というのはSWYを経ての大きな気付きでした。自分が偏見を持っていると自覚しつつ、色んな人の話を、たとえ共感できなかったとしても聴くという姿勢はすごく大事だなと思いました。

ーーSWYでもそういう経験があったんでしょうか??

はい。アメリカとメキシコの国境に行ってその日の夜に皆で移民について話した時のことです。船には(メキシコなど)移民側の国から来た人が多くて、今までの自分には無かった新しい視点や発見が多かったです。例えば家族の何人かだけが国境を渡ることがあり、そうなると不法入国なのでその後簡単には家族に会えなくてなってしまうという話を聞きました。不法入国だとしても家族がバラバラになってしまうのは聞いていてすごく心苦しく思いました。

私は元々アメリカ寄りの「たくさん受け入れると治安悪くなるし...」と考えていたのですが、彼らの話を聞いて行くうちに、「合法的に様々な国の人たちを受容できるようなシステムを、特に先進国であるアメリカ側が整えることが求められているのかな」と考えるようになりました。自分のモノの見方にとらわれないためにも色んな意見を知っておくことは大切だと思います。それに人間って共存していかなきゃいけないから、色んな人の意見を交えながら物事を進めていけたらいいのかなって思っています。

ーーそうですね、様々な人の意見を聞いて尊重しながら物事を進めることは理想的だと思います。しかし実際にそうするのは簡単ではないですよね。多数派や声が大きい人の意見が通りやすい中で、特に少数派や弱い立場の人の意見は聞いてもらえないことも珍しくないと思います。

そうですね。船でのディスカッションでも、日本人参加者には英語が得意ではない人も多く、最初は海外の参加者ばかり発言していました。そうすると彼らの意見だけで議論が進んでいくんですね。その時にファシリテーターの方が日本人が話す機会を設けたり、「怖がらずに発言しなさい」と声もかけてくださったんです。そうすると次第に日本人も発言できるようになっていきました。意見の質は変わらなくてもガンガン話せる人の意見の方が通りやすい状況が、発言の機会や手助けが与えられることによって、より対等に議論できるようになっていったことは、大きな発見でした。「こうやってボトムアップってしていくんだな」というのをすごく実感した出来事でした。

ーー世の中には「そのように特別待遇をすることは逆差別なのではないか」という考えもありますけど、一度機会を与えられると本来のポテンシャルが芽吹くこともある、というのは実際に経験して初めて重要性が沁みそうですね。

私もその出来事がある前までは何事も「別に能力ある人が選ばれれば良いのではないか」くらいに思っていたんです。でも実際に自分が支援される側に立ってみると「支援されることによって、本当は能力の差がない人たちに均等に機会を与えられるんじゃないかな」と心から感じることができて貴重な学びでしたね。

自分の戦い方 ~らしさを見つけて得た大らかさと寛容さ~

ーーここまでのお話を聞いていると、夕貴さんはかなり社交的で、何事にも迷わず挑戦してきたというイメージを受けます。そんな当時の自分が思い描いていた将来像は現在の自分と比べてどうですか?

なんだろう。船で話していたときは、もっと色んなことやりたいなと思っていたんです。でも、いざ社会に出ると、会社員というラベルを捨てることへのハードルを感じ、尻込みしてしまいました。やっぱり安定しているし職場もすごい気に入っちゃったから今は「会社員しながら色々なことに挑戦し続けたらいいな」という感じになってきましたね。生計を立てる仕事として毎回新しいことに飛び込んで、幅広いことに挑戦し、ユニークなキャリアを形成するには相当の覚悟が必要だと思います。パッションやストイックさがあればいいけど、私はあまりそういうのは得意ではないので、今のスタイルがあっているのかなと気付きました。

ーーなるほど。その「この道が自分の戦い方な気がする」という感覚を得られたのはいつ頃でしたか?

今考えると大学時代から薄々は自覚していたと思います。、AIUにもストイックでパッションある人はたくさんいるし、SWYもそうでした。色んなコミュニティで多様な人と話す中で「私はパッションとかストイックさとかはそこまでないけど、ある程度のことを淡々とやっていくことは苦手ではないし、新しいことに挑戦するハードルも低い。だったらそれを両立していくのが一番負荷がかからずに人生楽しめるんじゃないかな」とAIU時代から徐々に確信を強めていったような気がしています。私もストイックさがあまりに無さすぎるのはコンプレックスでもあるんですが、今生きてて楽しいからいっかって思っています(笑)

ーーその姿勢、大事ですよね。SWYやAIUなど多様な人が集まる環境に飛び込んで自分とは異質な人に出会うと、客観的に自分のことを見れるようになりますよね。それで、皆それぞれ強みも弱みもあるけど「自分なりの戦い方していけば楽しいからいいじゃん」という納得感のようなものが得られた、という感じなんでしょうか?

そうそう。なんか小さい頃は自分ができるのに他の人ができないのを見るとすっごいイラついてたりとかしていたんだけど、それも大学とか船でみんなで一緒に生活していくうちに「この人はこういう短所はあるけど、別の方面ですごい才能があるから一緒にいて楽しいな」というように自分の心も広くなれたと思います。昔は、自分が期日には間に合うように動くタイプだったので、それができない人を見ると「なんで?」みたいに思っていたんですね。テスト勉強間に合わない人とかね(笑)。でも、人間ってそれぞれ得意不得意あるからお互いそれを補い合って尊重し合っていったら楽しいなって今は思っています。私にとってはこれが大学やSWYを通して得た貴重な学びでした。

編集後記

色々なことに挑戦する分どうしてもエネルギーが分散してしまうのがコンプレックスだと話していた夕貴さん。しかし反対に、1つのことにストイックな人は幅広い経験を持つ人に憧れたりするのが面白いところ。色んな人がいるけど「完璧」な人はいなくて、それぞれに一長一短があります。だからこそ自他の不完全さを受け入れて、足りない部分は補い助け合って生きていく。そのためには自分とは違う「他者」の声を聴いて、理解して、話し合っていかなくてはいけない。その中で立場が弱かったり声の小さい人たちの声が切り捨てられない世界であればあるほど、誰もがより安心して自分らしくいられるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回の記事もお楽しみに!!

Interviewer: Ryohei Yamada / Ayusa Haga 
Writer: Ryohei Yamada
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