“やめた方がいいよ”と言われた家に、一目惚れ。
【岡本 智之さんの場合-第3話】
前回は、岡本さんが海外修業に行って日本へ帰るまでのお話。
今回は萩に来て明木の家に出会い、修繕するまでを追ってみる。
日本にいる時からオーベルジュをしたいと思っていたものの、ピンとくるものに出会えないまま、海外修業に出かけた岡本さん。
帰国後、改めて古民家を探すことに。
そんな折、岡山で店を開いていた時の知り合いがいると聞いてなんとなく遊びに行った萩。そこでなんと岡本さん自身が萩を気に入ってしまい、物件を探そうと思ったのだそうだ。
しかし、いきなり移住して店を出すのではなく、地域を知って溶け込んでからにしてはどうかという周囲の強いすすめもあって、地域おこし協力隊に入ることに。
岡本さんが家族を伴い移住して、運命の古民家との出会うまでに、そう時間はかからなかった。
Q.この家に最初に出会った時、どう思いましたか?
一目惚れでしたね。明木の家は初めのうちに見に来ていて、果樹を植えたり、畑もしたいと思っている自分にとって、ここなら思ったことができると思いました。
地元の人からは商売してもうまくいかないんじゃないかと言われましたけど僕は、もしやってみてもしダメだったら、それはそれでいいことだし、ここに一千万円くらい使って失敗しても、そんなに大きな失敗ではないという話はしていました。
ただ、当時は売主さんも譲る人を選んで次々断っている状態でしたし、修繕すると相当お金がかかるからやめたほうがいいんじゃないか、と心配する声もありました。
Q.それで、どうしたんですか?
確かにすごくいいけど、すごく傷んでるなぁと…。ひとまず、他の物件を見に行ったりもしたんですが、駐車場がないとか、条件の合う家はなかなか見つからなくて。その間も、やっぱり諦めたくないなぁとずっと思っていました。
それに明木の売主さんは空き家になってから10年もの間ずっと手を入れていて、草刈りなどはとても綺麗にしていたし、何かちょっとしたライフワークみたいになっていました。
僕も祖母の家が売却された時、すごく悲しくなった経験があるので、売主さんが買い手を選ぶ理由もわかるんですね。
それで、売った途端に家との関わりが終わりとなってしまったら多分寂しいだろうから、売却後も草刈りとかよかったら御礼もしますので、何か一緒にやれたらという感じで話したり、特に用事がなくてもちょくちょく行って話したりしながら、ちょっとずつ距離を縮めていって売ってもらうことができました。
Q.この明木で古民家を買うと決めて、ご家族の反応はいかがでしたか?
家内はぼくのことを信じすぎていて「早く店をすればいいのに」ってずっと言っていたので、ここで店を開くと聞いて安心したんじゃないでしょうか。やっぱり一番理解してくれてる人だし、僕以上に僕を信じているから。逆にプレッシャーになってますけど(笑)
Q.行政からの補助金などは利用できたのでしょうか?
もし居住用としての購入なら大きいのがあるけれど(※1)、
ぼくの場合はお店なので、それはなくて、萩市ビジネスコンテスト2019で「集落生き残りレシピ ~本質的な豊かさと生き続けるために~」で最優秀賞を受賞した時と、ぶち-CONやまぐち2019でも奨励賞を頂いた時の副賞と、あとは協力隊の補助金ですね。
Q.いろいろ大変な思いはあったと思いますが、2021年に無事、素敵なお店をオープンされましたね。古民家の修繕はいかがでしたか?
地域の人に助けられたっていうのが大きいですね、それ以外にないっていうか。こんな田舎に人は来ないって思ってたのにも関わらず、それでも自分でやるっていうのを心配して手伝いに来てくれました。
Q.具体的には、どのようなことを手伝ってもらったのですか?
そうですね、大工仕事も手伝ってくれましたし、しょっちゅう来て相談にものってくれました。”ここ、こうしたらいいじゃない” “これ、あの人が詳しいからちょっと連絡してみよう”とか。“道具持ってる人がいるから、ちょっと貸してもらおう”とか言って持って来てくれたり。
荷物を持つだけでも大人数で来てくれたり、本当に助かりました。
Q.地域の人の思いもこもっているんですね 。
自分で言うのもなんですが、きっと最後の希望的な部分もあると思うんですよね。これだけ若者が離れて行って、こんなところで店をするってなかなかないから。地域の人も楽しいと感じてくれたところもあると思います。
Q.この家のどんなところが気に入っていますか?
どこに居ても良さを感じます。床材など、本来は捨てるもの拾ってきて、磨いて使ったっていうのは満足度がありますね。
全体的にものがいいから、そんなに色んなことをしなくてもよかったというのもあります。
庭の見晴らしのいい所ででぼーっと過ごすのが好きだし、気持ちがいいですね。