幼少期の記憶

私の実家の周りは田んぼに囲まれていた。

春は近所の公園に咲く桜が好きだった。花びらが多く重なっていてポンポンみたいになっているのでポンポンざくらと呼んでいた。大人になってからそれが八重桜という名前だと知った。
夏に田んぼが一面緑になる様も好きだったけど、幼少期から夏はあまり好きではなかった。近所で遊んでいたら蛇に出くわすこともざらだった。汗で体はべたべたするし、ぽっちゃり体型の私が股ずれしやすいのもこの季節だった。みんな股ずれしていないなんて意味が分からなかった。
秋は収穫された後の稲木干しが好きだった。刈られた田んぼを歩いてパリッと音を立たせるのが好きだった。周囲の家は大きなトラクターを持っていた記憶がある。そのトラクターの倉庫を抜けて、犬がいる家に挨拶して、田んぼの道を奥に行くとコスモス畑があった。そこではたくさん写真を撮った記憶がある。好きな男の子なんていないのに花占いを毎日のようにしていた。

私が幼少期のころ、冬は雪が積もることがあった。3日ほどで溶けてしまう程度の積もり方だったけど、雪だるまを毎年作っていた。小学校3年生ぐらいになると雪を見ることはほとんど無くなったので地球温暖化を肌で感じていた。
母が出勤するときに車のフロントガラスが霜で凍っているのをお湯で溶かすのを見るのが好きだった。真っ白なフロントガラスの氷が溶けていく様子はたまらない快感だった。

私が高校生ぐらいになると田んぼはどんどん規模が小さくなり、同じような形の家がたくさん建設されていった。えもいえないノスタルジアを感じながら、自転車で登校したものだった。

今では田んぼは跡形もなく、完全なる住宅地になってしまった。駅まで歩いて15分、神戸まで電車で30分の場所なので住宅地になるのは当たり前だったのだろう。

それでも、春に八重桜を見るとポンポンざくらだと思うし、未だに夏は好きになれないし、秋にコスモスを見たら心があったかくなるし、冬に雪が降れば心が躍る。

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