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祝卒業!「母属性限定の高所恐怖症」


息子たちが大学生になってから気づいたことがある。
高所恐怖症には母属性限定のものがあるようだ。

独身の頃は旅行や出張で飛行機に乗る機会が多かった。
仕事や遊びで忙しい毎日を送っていたから
移動時間は睡眠時間だと思っていた。
飛行機でもほとんど眠っていたし、
怖いと思ったことはなかった。

それが、子供を産んだら急に飛行機が怖くなった。
乗っているあいだずっと、体がこわばって頭が痛くなった。
降りてからもひどい疲労感に襲われた。

飛行機だけじゃない。
マンションのベランダから、下が見られなくなった。
屋上展望台などは手すりに近づけなくなった。
子供を連れて東京タワーに登った時はずっと緊張していたせいか
翌日は全身がひどい筋肉痛になった。

若い頃平気で乗っていたジェットコースターも、
吐き気がするほどダメージを受けるようになってしまった。

どれもこれも、年をとったからだと思っていた。
子どもをふたり産んで、
忙しい育児で疲れ果てていて、
そのせいで身体が衰えているのだと思っていた。

でも、そうじゃないことに気がついた。
わたしは、母属性でいる時だけ高所恐怖症になるのだ。
自由なひとりの人間でいるときには高所恐怖症にはならないのだ。

息子たちが大学生になり、
数日家を空けても支障なくなった。
夫の単身赴任先へひとりで遊びに行くようになった。

本当に久しぶりにひとりで飛行機に乗った。
20年以上ぶりだ。
はじめはちょっと緊張していたかもしれない。
でも気づいたら

めっちゃ楽しい!!!!!

離陸した後、どんどん遠ざかる街を見下ろすのも、
雲の中を通り抜けてピーカンの青空に浮かぶのも、
雲の隙間から見える海や山を目を凝らして探すのも
最高に楽しい!

わたし、高所恐怖症じゃないじゃん!

思えば、高いところが怖いのはいつも子どもと一緒の時だった。
わたしは、自分が高い場所にいるのが怖いんじゃないんだ。
息子たちが高い場所にいることが怖いんだ。
息子たちが危険な目に遭うことが怖かったんだ。

そういえば…と思い出した。

長男が小学6年の頃だった
遊園地でフリーフォールに乗る長男を、
次男と二人で下から見上げながら待っていた。
頂上でしばらく静止していた長男が
ガクン!と急降下を始めた途端、
わたしの腰が抜けた。
ただ上を見上げて地面に立っていただけなのに、
急に空気が抜けたようにストンと尻餅をつくように腰が抜けた。
声も出なかった。

フリーフォールから無事に生還した長男が笑顔で駆け寄ってくるのを見ても
しばらく立ち上がれずにヘラヘラと笑っていた。
なんだかわからないけど、目から涙がこぼれていた。

あれもそうだったんだ。
自分じゃなくて息子が危ないから腰が抜けたんだ。
すごいな。
母性ってやつだ。

息子が一緒じゃなければ平気なのだ。
スカイツリーに友達と登った時も平気だった。
夫とガラス張りの高層ビルで窓際を歩いても平気だった。
息子の危険は恐怖だけど、
夫の危険はそうでもないようだ。
てことは、やはり、
わたしの20年来の高所恐怖症は
母属性限定の高所恐怖症だったってことだ。

最近次男が二十歳になった。
息子たちは子ども時代を卒業した。
わたしも高所恐怖症からめでたく卒業できそうだ。

さて、ということは?
わたしは母属性を卒業して、何属性になるんだろう?

これは多分、
いや、きっと
進化の時、なんじゃない?

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