【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(65)
前話
私の婚礼準備は大量の手紙で中途半端になっていた。クルトは執務もあるし、私がひたすら行けない謝罪と招待する旨を書く手紙を書いていた。お姉様の宮も他国に嫁ぐわけでもないため、婚約者内定のヴァルター様と過ごせるように突貫工事が進められていた。むろん、嫁に行くのだから大臣宅でいい、とお姉様は言ったのだけど、ここのところの不穏な雰囲気が漂い始めた世間を見て、お父様が宮殿内で住むように言い出し、万が一でも王女に危害が、と他の大臣たちもこぞって突貫工事派に回ったのだった。むろん、ヴァルター様のお父様も賛成派だった。孫が出来れば会いに行くとのことですんなりと話が進んだ。おかげでクルトの宮殿にはお姉様と私とクルトとフリーデが住んでいる。
お姉様とも食事を共にするため、共謀してしていたつつましやかな食卓は終わるかと思われたけれど、お姉様にバレると逆に結託の方に回り、フリーデの監視から見事かわすように手伝ってくださった。どうも、王族と大臣の差は大きく、食事も大臣クラスだとほぼこのようにつつましやかな生活が求められるのだそう。なので、嫁げば同じようにするから嫁入り研修と言われた。知らないのはフリーデだけ。私たちの給仕すると言っていたけれど、その時間はヴィルヘルムとの食事時間と私が定めたので後ろ髪を引かれつつ、ヴィルヘルムへへの宮へ行っていたのだった。おかげで戻ってくる頃にはお茶の時間となっていた。なにかうさんくさいと思っているようだけど、ヴィルヘルムがうまいことごまかしてくれていた。
そして、私は手紙書きと花嫁研修の勉強の毎日だった。寝る前、クルトとお茶を飲みながら一日の話をするのが習慣となっていた。
これじゃ、もう、新妻感もなく熟年夫婦だわ。嘆いていてもさすがにクルトは夜は甘やかしてくれなかった。そりゃ、男性の理性を試すのだものね。昼間は時々、とびっきり甘い言葉で甘やかしてくれるから、それで乙女の恋心は満足していた。これで婚前、というのが信じられないわ。私もこの国にきて時間がたって、だいぶなじめるようになった。ふと、寂しくなってもクルトたちがいるし、おじい様から託されたものがある。それに触れて故郷を懐かしむだけぐらいになっていた。到底、戻ろうなんて思わない。またキアラに引っ張られて戻るなんてことがあれば恐ろしいもの。おじい様は二度目はないと言っていたけれど。この剣と水晶を納めるのが少々寂しかった。かといって持ち歩けば狙われる。こんな危険極まりないものを私たちだけで守れるとは思えなかった。世界は平和が一番。争いの種は置いておきたくなかった。っただ、そんなことを思いながら開かずの間にいる時間は次第に長くなっていた。
「エミーリエ。また、ここにいたの」
クルトの声で我に返った私は背中を振り向いた。クルトが優しい目をしてみていた。
「執務は?」
「終わったよ。薔薇園を散歩しようと探したけれど宮にいなかったからここかと思ってね。おじい様に会いたいの?」
「わからない。でも、これを見ていたら心が落ち着くの。でも、ちゃんと神殿に納めるわ。東が知れば狙ってくるもの。争いの種になるわ。ただ、ここにある間は見ておきたくて。なんとなく家族が近くにいる気がするの。燻製音声も婚礼準備のどさくさでどこかに行ってしまったから……」
「エミーリエ。つらいね。一年以上たってもその気持ちはまだまだあるんだね。俺がもっとエミーリエのそばにいてあげられればいいのに。今日は添い寝をしてあげるよ」
「クルト!? そんなこと。理性を試すのと同じじゃないの」
「君の瞳が涙でぬれているのを知っていながら放り出すのはいやだ。添い寝して眠りに落ちるまで手をつないで手上げる。眠れば、俺の寝室へ戻るから」
「それじゃ、クルトが睡眠不足になるわ。いいの。戻りましょう。王妃になるのだもの。もっと強くならないと」
今、住んでいる皇太子宮に戻ろうとするとクルトに手を引っ張られて、気づけば抱きしめられていた。
「姉上もいるんだ。そんなことにはならないよ。二人きりになればわからないけれど、俺の宮は家族の出入りが激しいからね。おいそれと間違ったことはできないよ。大丈夫だから」
「じゃ、試しついでに、クルトも同じベッドで眠って。手をつないで寝ればきっと二人とも安らかに眠れるわ。疲れているのに起こしたまま寝るのは嫌よ」
「エミーリエは優しいね。そうだね。もう、家族みたいなものだ。一緒にこれからは寝よう。それなら俺のベッドの方が大きい。エミーリエが引っ越してくるといいよ」
その申し出にまぁ、と私は声を上げて泣きそうになっていた涙が引っ込んだ。
「そんなことして大丈夫なの?」
「理性が崩れた時はその時だよ。その時はエミーリエも崩れてるから」
確信めいた言葉に私は真っ赤になる。しょっぱなから崩れそうで怖かった。
「さぁ。戻ろうか。フリーデが飛び込んでくるよ」
「え。あ。そうね……。戻りましょうか。まぁ、キアラ、いつからそこに」
「俺と一緒に来てたよ。キアラを挟んで寝れば崩れもしないさ」
「ふふ。キアラが娘ね」
「そういうこと。じゃぁ、キアラ、フリーデに戻りましたって伝えてきて」
にゃーん、と一声鳴くと、キアラは飛び出していった。私たちはその後ろをゆっくりついていった。また今日も、一日が終わろうとしていた。
あとがき
最初の頃は理性があったのね。この頃からだんだん、婚礼と初夜の天秤が始まるのです。この時はまだ、決まってませんでしたが、今や81話まで行ったので、このころからはうんと変化が。そしてその後も山が~。東の山が~。国名もちゃんと出さないといけませんね。決めてるので出します。新しく執筆するところでは。東西で省略してましたが、領土の大きさやいろいろ決めてあるのです。自力で。これだけはなぜか一人で書ききることに執着してます。なので、見出し画像もCANVAで作ったものをずっと使い続けています。GPTは出てきません。サーコや星降りも文章は一人で書ききったものです。見出しだけ使いました。しかし、こんななんでもない日の話が二千字近いとは。でも、キアラはいつしかユング心理学でいうアニマアニムスの象徴の猫を設定してるし、またシャドウというペルソナも兼ね備えてしまった。キアラはかなり重要な子なんです。どうしていきなりユングが来たのやら。飢えてる。河合先生の本に。kindle読みたいなー。と、これ以上あとがきは長いですね。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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