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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(64)

前話

「エミーリエ! エミーリエ!」
 クルトの声がする。あれ? おじい様の家でお茶して……それから……それから……。
「クルト!」
 私はがばり、と起き上がった。そこは薔薇園の中だった。
「にゃ~ん」
「キアラ! あなたも……帰ってきた??」
「そうだよ。それから、恐ろしいものがそこに」
 クルトが視線をやると細長い箱と四角い箱があった。こ、これは……。
「魔皇帝の剣と水晶だよ。兄上、姉上。いつまでもこんなところで倒れてないの。フリーデが心配してるよ」
「ヴィー!!」
 私とクルトが一斉に見る。
「お茶会楽しかったようだね。よくもあれだけ弟の悪口が言えたね」
 じとっとヴィルヘルムが私たちを見る。
「ということは……」
「新しい記憶が加わったの……?」
 恐ろし気に私たちはそろり、と聞く。
「うん。しっかりとね。デコピン制裁も拳骨制裁も嫌だからね。言っとくけど」
「ヴィー!!」 
 私とクルトはヴィルヘルムにくっつく。
「あの、恐ろしいものを今すぐヴィーが持って帰って!」
「いやだよ。魔皇帝の身分は兄上に移ったんだよ。例え剣を神殿に返すとしても道案内しかしーないっと」
「ヴィー!!」
 私たちの情けない声が上がる。
「戦いでなくても平定する方法はこの時代にしっかりあるじゃないの。幸い、招待状も山ほど来てるし」
「ヴィー?」
 ヴィルヘルムを見てから私とクルトは顔を見合わす。戦いでない方法って?
「外交だよ。外交。条約なり盟約なりむすんで世界を平和にしたらいいじゃないの。兄上にはもってこいの方法だよ。剣の腕はからきしないんだから」
「ないとは失礼ね。クルトは私を助けてくれようとしたこともあったのよ。私より腕は落ちてもそこらの衛兵よりは使えるわよ!」
 くってかかる私をどうどう、とクルトがなだめる。
「剣が苦手なのは確かだから。ただ、エミーリエを守るために使えるように鍛えているだけだから。武力でない、平定がかなうならそれでいいよ」
「クルト……」
「エミーリエ……」
 見つめあう私たちの外でコホン、と咳払いが聞こえる。
「あ。ヴィーいたのね」
「いたのね、じゃないよ。姉上。風邪ひくからとっとと宮殿に帰るよ」
「あれは?」
 二人で恐ろしい代物を指さす。
「僕にはあんな重いもの持てる腕力はないよ。兄上と姉上で管理! いいね?」
「は……。はぁい」
 気迫に押されて二人でそれぞれを抱える。現物が丸出しになってないだけまし。
「さぁ。帰るよ。キアラが来なかったら、いつ帰ってきたかわからなかったんだから」
「キアラがヴィーのところに行ったの?」
 ずっと一緒だと思ていた。キアラを見るとすましてにゃーん、と鳴く。
「姉上の影だよ。大事にしてあげてね」
「もちろんよ。さぁ。キアラ一緒に帰りましょう」
「にゃん!」
 立ち上がって水晶の箱を持つと足元にすり寄ってくる。
「賢かったわね。ご飯をすぐに用意するからね」
 ごく自然に抱き上げていた箱だけど歩きながら落としそうになって血の気が引く。

皇太子宮につくとフリーデが飛んでやってきた。
「エミーリエ様! クルト様! いつまで薔薇園に。外はさむうございますのに。さぁ、暖かい飲みものを用意しいたしました。あったまってください。夕食はお二人で、といつものように準備しております」
「ありがとう。フリーデ」
 私は毛布でぐるぐる巻きにされるのを苦笑いで見ながらカップを両手で持つ。暖かそうな湯気が立ち上ったカップは飲み頃で心がほぐれた。

 おじい様、今頃どうしているかしら?

「やっと肩の荷が下りたって安心してるよ」
「ヴィー! 帰ったんじゃないの?」
 私の言葉にヴィルヘルムが言う。
「この二つを預けられて帰れないの! 早くなんとかしまって!」
「って?」
 クルトがヴィルヘルムに聞く。
「姉上の宮殿の開かずの間に設置できるようになってるよ」
「そうなの! とっととおいてこなきゃ。こんな物騒なものこの宮殿にあったら心休まらないわ!」
「そのいらないもの認定やめてよね。僕がフリーデと置いてくるから風邪をひかないようにあったまってて。フリーデこの細長い箱の方を持ってきて」
「はい。ヴィルヘルム様」
「そこはヴィー!」
 私を含めた兄弟の声がハモる。
「こんな時まで仕事人間じゃ駄目よ。ちゃんとヴィーって呼んであげて」
 優しく私が言うとフリーデは顔を真っ赤にしながら小さく、はい、と答える。それを見たヴィルヘルムはフリーデを引っ張って散歩デートに出かかけた、いえ、安置しに行ったのだった。
「戻りたいなんて言うんじゃなかったわ」
「そうだね。俺もお会いしたいって言ったしね」
 二人して毛布にくるまって先日の発言を後悔していたのだった。


あとがき
貫徹の翌日です。エミーリエが大暴走した。眠いまま打ってたら耳年増のごとくたくましい新妻に。クルトはひやひや。というか、ラストが落ちなくて最悪でした。何とか休憩挟んで落としましたけど。ぶー様のうさみみに触発されて、きゃぴきゃぴした話が書きたいと思ってネタを探していましたが、なかったです。で、いろいろファイルを見ていると昔の作品にシリーズとしてはそこそこそろったものを見つけてGPTでイラストの原画を作ったのであとで加工して、載せます。どこのアカウントで公開するかは悩みもの。創作はここでいいでしょうかね。21話まであるので、そこそこのシリーズです。
また、眠たくなってきた。野球の番組見るんだい。と必死です。と、夕飯です。行ってきま~す。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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