見出し画像

【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(54)

前話

「火急の知らせにございます。カロリーネ様が中年の女性とキルアデの森へ向かったとの一報が! 人相を聞きますとおそらくアウグスタ様かと!」
「なにぃ!」
 クルトの執務室前で聞いた知らせに私たちは一気に殺気立った。椅子から飛び上がるかのように立ち上がると一斉に向かおうとした。フリーデも。ヴィルヘルムがフリーデに言う。
「君は姉上に暖かいお風呂と食事を用意して待ってて。魔力のない君が行くと危険だ」
「ヴィー……ヴィルヘルム様。わかりましたわ。飛び切りのベッドとお風呂とお食事をご用意しています。気を付けて」
「うん」
 ヴィルヘルムはフリーデの片手を恭しく持つと手の甲にキスをする。そして走って出ていく。
「待って! 私も行くわ。魔力があるなら! フリーデ後をお願い!」
 私はクルトと視線を交わすと宮殿を走り出した。
「僕は父上にも言ってくるから、先に行ってて。アヒムにはすぐ知らせを飛ばすから!」
 そう言うだけ言ってヴィルヘルムは姿を消した。
「三日酔いじゃなかったの?」
「魔力を高めて回復させたんだろう。まだあきらめていなかったのかあの人は……」
 最後の方はまるでクルト自身に言っているようだった。哀しい目をしたあの人は、何を糧にこれまで過ごしてきたのか。見たこともない憎悪を感じた。
 三人でキルアデの森を目指す。一番、森に詳しいクルトが戦略的に優位に立てる場所を探し当てる。やはり、そこにアウグスタ様とカロリーネお姉様がいた。
「おや。大事な大事なエミーリエ様もやはり来られましたか」
「当たり前でしょ! 大事なお姉様なんだから!」
「エミーリエ。後ろに下がって」
 クルトが後ろ手にかばう。すらり、と帯刀していた剣をクルトが抜く。
「おとなしく姉上を返すんだ。これ以上罪を重ねても誰も悲しまない」
「いいから。このおてんば娘とエミーリエを交換するのね」
「エミーリエをどうするつもりだ!」
「西の皇太子さまがご所望でね。連れて行けば教皇に取りたていただけるのよ。はやく来なさい!」
 次の瞬間、その場は凍り付いた。
「エミーリエは渡さないわ!」
 突きつけられている探検を直接カロリーネお姉様が直接にぎる。血がしたたり落ちる。
「お姉様!」
「余計なことを!」
 アウグスタ様が短剣を引こうとする。痛みでお姉様は手から短剣を外す。すかさず、ついてきたお姉様が想っている門兵がお姉様の手を引こうとする。
「動くんじゃないよ!」
 アウグスタ様が短剣を振り回して門兵を胸を切りつける。
「オリヴァー!」
 カロリーネお姉様の悲鳴に近い声があがる。
「しっかりして!」
 カロリーネお姉様がアウグスタ様から離れてオリヴァーと呼んだ門兵を抱き起す。そこへ急にヴィルヘルムが現れる。少しずれて犬笛が聞こえる。
「こんなかすり傷で死なないよ。姉上の方が大変だ。貸して」
 ヴィルヘルムがカロリーネお姉様の手を握って話す。血が滴っていた傷がなくなっていた。治癒魔法だ。すぐにオリヴァーの胸の傷も治す。
「もう、僕の部下が取り囲んでいる。逃げられないよ」
 ヴィルヘルムの冷たい宣告に対してカロリーネお姉様は感情が高ぶっていた。
「どうして?! あなたも父を愛していたんじゃないの? どうしていつもこんな真似を!!」
「愛してたわよ。最初の子が流れるまで。流れて私は子を産めない女になった。それから陛下の寵愛は若い王妃に向き始めた。もう、お金と権力しかなかったのよ!!」
 アウグスタ様の心の悲鳴が響く。
「アウグスタ様……」
私は何と言っていいのかわからず、ただ、名前を呼ぶ。
「同情はいらないわ!」
 叫ぶとその短剣を首筋に当て一気に引いた。血がほとぼしる。目の前に立っているカロリーネお姉様が返り血を浴びる。お姉様は茫然としていた。どうして、を繰り返しながら。足下にアウグスタ様は息絶えておられた。
「姫……」
 オリヴァーが上着をかけて抱き寄せる。お姉様の泣き声だけがひびいていた。


あとがき
執筆日と更新日が重なってしまいました。本来勤務のないときは執筆に集中することにしているのですが。これ以上、日が開いても、ということでシリアスな展開の話を持ってきました。現在63話執筆中です。いつになったら終わるんだ? そしてこれから朝活の方も行こうとかと思ってはいるのですが、執筆したいので時間が来るまで書いてるかも。なんせ、人生初の白髪染めをした日でして、案外染まらないのに困っている最中なのです。生え際の数本の白髪のために黒髪でも染まるものを買ってやったのに、白髪が目立たなくなったぐらいで、染まったどころではありません。髪の毛も短いから液もあまるし。取っておけなかったので洗って容器を捨てることに。この模様は朝活アカウントで今日の夜にでも書きに行きます。アレルギーがでなかっただけましですね。もう少し暗い色合いもあるので、それを見てみます。近所には売っていなかった。さて、難波強君(勝手に当て字)は無事卒業できるのでしょうか。危機的状況で今日の再放送が楽しみです。野球がないー。困った。WBCは見れたら見ます。ここまで読んでくださってありがとうございました。

この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?