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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:緑の魔法と恋の奇跡 第四話 始まった朴念仁同士の恋

前話

「あと、いくつの試練があるんだい?」
 後方を気にしながらライヴァンがエレナ・シルヴィアに聞く。
「あとはあなたの仕事のはずよ。聖樹の守護者が入り口を塞いで護っていいるの。その二つしか試練のことは知らないわ」
「そうか。それなら、このまままっすぐ行けばいいのだな?」
「ええ。それが何か?」
「なら、話早い。方向音痴ではないからまっすぐ行くことはできる。私が前に出よう」
 そう言って後ろ手にエレナ・シルヴィアをかばって歩く。そのたくましい背中を見てほっとする自分にエレナ・シルヴィアは驚いていた。
  
 どうしてこの人の背中を見て安心するの? 危険な人かもしれないのに。
 
 だが、疑う声の方がエレナ・シルヴィアの中で小さくなっていく。
 
 どうしたの?
 
 エレナ・シルヴィアは動揺して自分の考え事に沈んでいく。気がつけば目の前にライヴァンはいなかった。
「いけない。はぐれてしまったわ。ここはどこなのかしら。この森の中では方位磁石は役に立たないし」
 細々した装備品を入れた袋をひっくり返しても自分がどこにいるのかわからない。この森には磁場あり、磁石は狂うのだ。
「シルヴィ!」
「ライ!」
 目に涙を浮かべてエレナ・シルヴィアはライヴァンの腕の中に飛びこんだ。
「ごめんなさい。あなたとはぐれるつもりはなかったのに、自分の考えに囚われてしまうだなんて」
「それはいい。もう。だが、俺も方向を間違えていたようだ。シルヴィの方が正しかった」
「え?」
「見てご覧。君の装備品を踏みつけて壊している者がいる」
「まぁ! 私は第二の試練の所にまっすぐ来ていたのね!」
 目の前には巨大な森の守護者が立ちはだかっていた。
「さがって」
「でも。装備品が」
「そんなもの俺の使えば良いから。とにかく下がって」
 ライヴァンからものすごい気があふれ出てくる。これが剣士という証なのか。エレナ・シルヴィアは翠緑の杖を持ってライヴァンの防御の力を高める。人間と妖精ではうまく連係できない技だが、賭けてやってみればできた。そのまま、自分の魔力を注ぐ。ライヴァンは間合いを取ってじりじりしていたが、守護者がかかってこないとわかると一気に剣を繰り出した。どこが弱点なのかもわからぬまま、心臓を狙って懐に入ろうとする。だた、守護者もそう簡単に懐に入らせてはくれない。大きな樹の枝で作られた手を振り回す。ライヴァンの頭の上に手がかすっていく。器用にもライヴァンは腰を落として回避すると一気に走り込んで懐に入った。
「すまない!」
 「死ね」ではなかった。使命のために闘うしかない守護者に謝った。すると守護者はみるみるうちに小さくなってリスのような動物に変わった。ライヴァンの肩を行ったり来たりして楽しんでいる。
「リ、リス?」
 二人でこの小さな動物をまじまじと見つめる。
『二つ目の試練は解かれた。命を尊ぶ剣士に道は開けられた。姫とともに中へ入れ』
 二人でそろり、と足を踏み入れる。古代から育ってきた聖樹が何本もそびえ立っていた。その奥に紅く、血のような色を発するものがあった。
「『森の心臓』だわ」
「『心臓』?」
「この聖域に秘宝としてこの森を見守ってきたものよ。あれに森の生命の力について教えてくれると伝えられてきてるの」
 エレナ・シルヴィアが近づいて、「森の心臓」を手に取ろうとしてその目の前にある物に気づいた。
「ライ。本だわ。ここに森の生命力に関する事が書いてある。『森の生命は生命の泉に潤されている。生命の泉が枯れるとき森も大地も枯れる。再び泉を復活させるのは……』ここから不明瞭で読めないわ。とにかく『生命の泉』に行かないといけないみたい」
「そうなのか。事は簡単に解決しないという訳か。それでは姫、旅の同行はお許しいただけますか?」
 エレナ・シルヴィアがもう、ライヴァンに固い言動を取らないと知ったライヴァンが冗談めかして言う。
「もちろんですわ。王子様」
 そう言って二人は笑い声をあげて何故か抱き合っていた。ライヴァンも恋というものを知らない。


あとがき
この頃は恋愛があった。最近の話では朴念仁同士ということで周りが突っ込んでも?な状態の二人でして、恋が進展しない。ただ、ライヴァンがちょっと歩き出しましたね。お楽しみに。大分後ですが。エレナ・シルヴィアは純粋培養なので知るよしもない。困った事だ。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

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