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【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:ユメという名の姫君の物語-ユメ-第十三話 サクラと王子

前話

 タイガーは仕事で通話できないときがある、とは言っていたけれど、ほぼ、毎日私とタイガーは話していた。周りには覚めやらぬ恋の熱とでも見られていたけれど、放っておいた。どうせ、いずれは嫁ぐ事になるんだから。どんなに長く伸ばしても結果はわかっていた。ただ、この友人らしい関係の時間が私にとっては大事だった。だから、記憶をどう取り戻すか聞くために通話してはやめていた。それを聞けば、私達の同盟は終わると思っていたから。すわ、婚礼にもなりかねない。結婚してからが蜜月というけれど、私とタイガーはその手前で蜜月を味わっていた。なんだか変わった関係だとは思う。でも、これがここ良い時間と関係だった。たまにアビーもタイガーの画像に手をかけては空を切っていた。
「アビー。ご主人様は私よ」
「取り上げたのは俺だ。なぁ。アビー」
 にゃーん、としっかり応える当たりは流石、タイガーが取り上げた子だわ、と思う。
「シャルロッテ。そろそろサクラが満開になる。散ってしまう前に見に来ないか? 年に一度の情景だ。ユメ、いや、シャルロッテにも見せたい。今は、こんな感じだよ」
 タイガーの顔からそこそこ咲いている薄紅色の花が見えた。
「まぁ。綺麗! でもそう簡単に行けるの?」
「迎えをよこすよ。君の国の最新型の車でもいいだろうけれど、こっちのほうがもっと速く着く。ただ、漫然と座っているのは嫌だろう? かといって姫様と連呼されるのも嫌だろうし……」
「あら。よくわかってるのね」
「君が仕事の鬼だって聞いているからすぐ想像つくよ。今は執務に着いてるの?」
 私は頭を横に振る。
「執務についても記憶が欠落しているの。だからこうして毎日、話していられるのよ。アビーも手がかからないし」
 にゃーん、とアビーが得意気に鳴く。
「アビーはほんと王子に似てるわね」
「俺はそんなにちゃっかりした猫じゃない」
「猫じゃないのは確かね」
「シャルロッテ!」
 彼が、ユメととっさに呼ぶのではなく、特に最近はシャルロッテと呼んでくれる。それが何よりも嬉しかった。ユメの名は短いから呼びやすいけれど、得体の知れない名前で呼ばれたくは無かった。私の意識も次第にユメ、から、シャルロッテという姫君になっていた。ただ、記憶は無い。宙ぶらりんのままであっち行き、こっち行きとしていた。
「また、難しい顔をしてるよ」
 タイガーが指摘する。アビーが腕に体をすり寄せてくる。アビーは通信機を置いた机の上にいるのだ。
「はいはい。いつもの私よ。心配しないで。そんなに。私だってこの記憶がないのが不安なのよ。タイガーだってそうだったでしょ?」
「そうだね。でも、最初はそんなもんか、って思ってた。普通に仕事も生活も出来ていたからシャルロッテほど困ることは無かったよ。シャルロッテは全部消えたんだからね。しかし。ユメとシャルロッテだと呼び方に偏りがあるね。シャルロッテに愛称ないの?」
「ロッテという愛称があるわ。そっちに変更する?」
「ロッテ。ロッテ、か。いい響きだね。ロッテ」
 タイガーがにっこり笑う。私もにっこり笑う。これが恋、と言うことを私達はまだ知らなかった。


あとがき
煌星の使命と運命が尽きてしまったのでこれを出してきました。これもそこそこまだ在ると思いますがそんなにないかもしれません。肝心なところで切れていたような……。当分、これと最後の眠り姫の二本です。こちらに来て作り始めた話は今、ストック作りの真っ最中です。いずれも50話になりましたが、10話もストックはないのでもう少しお待ちください。
さて、野球在るかしら。今夜はこれを置いて野球観戦しながらうとうとします。

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