見出し画像

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫になっていました。(9)再編集版

前話

 翌朝、ウルガーはやってきた。私が着替え終わったちょうどその頃に。そして部屋へ入るとアーダとエルノー夫婦、アルバンも、さらにはフローラも呼び集めると、座ってみんなで朝食を取ると言い出した。
 アーダ達はそんな身分違いなことを、とかなんとか言っていたけれど、全員が大きめのテーブルに囲むように座って朝食になった。
「はい。ゼルマ、かけ声かけて」
「かけ声って・・・」
 不意に「いただきます」、という言葉が浮かんだ。私は手を合わせて言う。
「いただきます」
「はい。みんなも頂きます」
 ウルガーに言われてみんな、もごもご言うのを確認するとウルガーは食べ始めた。フローラの食べるのも待たずに食べ始める。昨日、毒味をさせるのは嫌だと、言ったのは私なんだけど。
「ゼルマ。食べないの? 貰うよ」
 手が伸びてきたので私は皿をすっとよける。危うくテーブルとまたちゅーするところだったけれど、なんとか耐えきった。それがおかしくてクスクス笑って食事にならない。
「食べないならちゅーするよ」
「いたしません。はい。頂きます」
 ようやく私は食事に手をつける。なんの異変も起きないのをほっとしてフローラは見ている。
「フローラ。食べないの?」
「あ。いえ、私は、必要ないようなので」
「毒味役で一緒に食べているんじゃないよ。フローラ。ゼルマの家族としてみんな一緒に朝食を食べるんだよ」
「家族?」
 私とフローラは顔を見合わせる。
「ほら。元々フローラの妹として養子に受け行け入れる話があるだろう? それを形にしただけだよ。家族なら毒味役もなにもなく一緒に食べるじゃないか。フローラはゼルマのお姉さんなんだよ。一緒に食べてあげて」
「ウルガー」
 思いやりに満ちたウルガーの言葉に私は涙声になる。
「泣かないの。泣いてたらちゅーするからね」
 鼻をぐすぐす、言わせながらもエルノーから貰った木のお盆を取り出す。
「その時は問答無用でこれでちゅー制裁発動だからね」
「いいよ。またあそこでちゅーするから」
「ウルガー!」
 お盆で殴りそうになるとまたウルガーは食事をはじめる。
「さぁ。フローラも食べて。用意してくれたんでしょう?」
「ええ。それでは頂きます」
 私の真似をしてフローラが食事を始める。お姉さんってこんな感じなんだ。少し年上の姉として家族になる。その事がうれしくてつい手を止めがちになった私だった。そのたびに、ちゅー制裁発動したけど。久々にすがすがしい朝だった。

その日、私はエリシュオン国の服を着て緊張して待っていた。葬儀はまだ行われていないけれど、養子縁組の件が先に動き出したのだ。王弟殿下でもあるフローラの公爵殿下。そんな人の娘になんてなれるのかしら? フローラをお姉様と呼べるのは嬉しいけれど。
「ゼルマ様。そう、緊張なさらずに」
 姉となるフローラが気分をほぐそうと気を遣ってくれる。そういう優しいところも好きな姉、だ。
「様はなしよ。もう姉と妹になるんだもの」
「でも」
「フローラもきっと身分ある方と家族を作るのね。それまで私のお姉様でいて頂戴」
「ゼルマ様」
「ゼルマ」
 にっこり言うと言いにくそうに名を呼ぶ。
「何?」
「父が立っております」
「失礼いたしました! ゼルマ・テア・オットーでございます。王弟殿下」
 すくっと立ってお辞儀をする。
「固いことは言いっこなしだ。この国の言語はあまり話せないとフローラから聞いていたが、しっかり話せているではないか」
「それが、突然、話せるようになったのです。向こうの国から帰ってきてフローラ様やアーダと話していると突然エリシュオン語で話していると言われて、わたくし自体も不思議なのです」
「わたくしなど宮廷語をはなさくてもよい。何時のゼルマ姫のままで。これから父となるのだ。お父様と呼んでおくれ」
「でも、それでは身分的に釣り合わないですわ」
「それを言うならば王太子妃殿下となるゼルマ姫の方が身分は上だが?」
「え・・・?」
 頭が真っ白になる。てっきり王弟殿下の方が身分が上だと思っていた。違うの? それだけ大層な事なの?
「ゼルマ。混乱してるのはわかるけれど、まずはお父様と少しリラックスして話した方がいいわ。私も妹として接することにきめたから」
「フローラ様」
「お姉様」
 改めて言われるとくすぐったい。家族がまた出来る。父と姉ができる。ん? お母様は?
「すまないな。母親はおらんのだ。出て行ってしまってな。遠い国の側室になったと聞いている。もう、どうでも良いことだ」
 ああ、と私はため息をつきたくなった。ここにも闇が巣くっている。それを取り除こう。私はそう決めると公爵卿に手をひっかける。
「この屋敷を案内して下さい。お父様。お姉様も」
 急に柔らかくなった私の手を軽く新しい父は叩く。
「気配りは国随一だな。ウルガー王太子が惚れるのも無理はない。さぁ、庭でティータイムをすごそう」
「素敵。ほら、お姉様も」
「はいはい」
 両脇に新しい父と姉を持って庭に行く。そこにはお菓子と紅茶が用意してあった。よく華の宮で食べる物と一緒だ。近づいていくと途端にお姉様が緊張した顔つきになる。ふっとお父様を見上げると眉間にしわが寄っている。
 毒が盛られたのだ、と直感でわかった。誰が? その問いは出せなかった。ただ、成行きを見ているしかなかった。
「ゼルマ。お茶は後にしよう。まずは我が家となる屋敷を案内する。フローラ、後片付けを頼む」
「はい。お父様」
 その緊張したやりとりに完全に気づいてしまった。やはり、毒が盛られたのだ。一体誰が。この屋敷の警備も重厚だった。内部犯行? 思考が沈みかけてお父様の声で我に返った。考え込む隙を与えず、お父様が口を開いた。私は何を言われるのかと、緊張する。
「そなたにも実家に帰れば部屋がある。そこを案内しよう」
「まぁ。私に家出用に部屋を設けて頂けてるのですか?」
「家出用とは少し違うが、あまり王太子とは仲が進んでないのだな。ウルガーが必死で頼み込むのもわかる」
「頼み込んだ?」
「家族を作ってやりたいと必死で頭を下げていた。このままでは家出されるから、と」
「ウルガー」
 知りすぎるのね。私の心の中を。今はもう家出なんて考えないのに。まぁ、しばらくは頭の中にあったけれど、恋してしまった。あの闇を抱えたまま大人になったウルガーに。王子様の瞳に恋をしてしまった。
「まぁ。その様子では大丈夫そうだな。実家に帰りたいと思えばいつでも帰れる。ここは王宮からさほど離れていない。王太子と夫婦げんかすればこもれば良い。絶対に頭を下げに来るから」
「夫婦げんかって・・・」
 思わずぞんざいな言葉使いになる。
「その目は恋する瞳だ。恋をすればいろいろある。その時にはこの父や姉を頼ればよいのだ」
「お父様・・・」
「さぞかし、無念であったろう。実の父君は。婚礼の日を見ることなく逝ってしまわれた。同じ親として悲しみを覚える」
「お父様・・・」
「お父様しか出ないな。さぁ、まだまだこの屋敷には秘密がある。探検しようではないか」
「素敵。どこへ連れて行って下さるの?」
「そうだな。まずは調理場に連れて行こう。ゼルマの好物を教えておくにはちょうどいい機会だ。どんな物が好物なのだ?」
「えっとー」
 幼い子供に戻ったように好きな食べ物を列挙してお父様はそれを優しい顔で見守ってくれていた。お父様、お母様、新しい家族を持ててゼルマは幸せです。やすらかにお眠り下さい。そっと心の中で祈った。
新しい家族の元を去って、私は再び華の宮に戻ってきた。お姉様が手を取って慣れない服に苦戦している私を助けてくれている。いつもはもっと簡素な服なのだけど、王弟殿下との対面となると正装が必要だった。ドレスをずりずりして宮へ入る。
「お姉様ー。何時もの服に着替えたいー」
 何時ものキンモクセイの宮に入ってベッドにダイブするとお姉様に言う。
「困った妹さんだこと。正装は慣れておかないと婚礼の日に悲鳴を上げるわよ」
「もう。悲鳴を上げているわー」
「姫、帰ったのー。はい。ちゅー」
 ばこん。
「なんだ。木のお盆持ってたの」
「当たり前でしょ。ここの宮に入るときに持ち物からずっと手に持って歩いていたわ。もう。なんなのよー。この重い正装はー」
「うん。正装の姫もキレイキレイ。ちゅー」
 ばこん。
「もう、痛いなー。ちゅーはやめておくからその物騒なお盆を置いて」
「ホントにホント?」
「ホントにホント。夕食が冷めちゃうから」
「えー。もうそんな時間?」
「そんな時間。扉の向こうで待っているから早く着替えて。フローラ頼むよ」
「はい。姫様。お着替えですよ」
「お姉様になったんじゃないの?」
「ここは職場です。職務に忠実でないと」
 もうっ、とふくれっ面をしてドレスを脱ぐ。その先から何時も着ている服を広げて着せるお姉様。せっかく姉妹になれたのに、これじゃ、いつもと変らないわ。
「まぁ。いつもよりすごいふくれっ面ですわね。姫様」
「だって。お姉様になってくれないんだもの」
 うー、と目に涙がたまる。身分の差なんて嫌いだ。
「もう。ゼルマったら。わかったわ。ここではお姉様でいいけど公の場では女官と姫よ」
「ほんと?」
 私は飛びついてじっとフローラの目を見る。
「わかったから。そんなに王子に恋しているような目にならなくてもいいわ。それは王太子様に取っておいてあげて」
「何が取っておくの?」
「ぎゃー。痴漢ー」
「って。もう服に着替えているじゃないか。夕食にするよー。エルノーもアーダもアルバンもね」
 はいはい、と言わんばかりにいつものメンバーが集る。そして食卓を囲む。急に幸せを感じて思わず、涙がでる。
「姫様!」
「ゼルマ!」
 アーダとフローラが慌てる。ウルガーはもう見もしないで食事に一直線。
「ごめんなさい。あまりにも幸せで涙が出そうになったの。こんなに幸せな時間は久しぶりで・・・」
「ゼルマ・・・」
 フローラがぎゅっと手を握ってくれる。思わず手を握りしめる。
「お姉様、大好きよ」
 そこに視線を感じる。ウルガーだった。
「姫の好きは俺だけのもの。フローラともみんなとも共有するつもりはない」
 ぶすーっとして言う。
「はいはい。ウルガーも大好きよ」
 ノリで言って、初めて告白したような記憶にびっくりする。
「あら。私、ウルガーに好きも何も言ってなかったかしら?」
「ああ」
 じとーっと恨みがましくウルガーが見つめる。
「あとでちゃんと告白してあげる」
 にっこりして言うとウルガーはなんとも言えない表情をする。
「妙に素直だね」
「そうかしら?」
「お父様と気が合って心配事が一つなくなったからですわ。姫はとても素敵な子。ウルガー様にだけなんてもったいないわ」
 フローラがぎゅーっとしてくれる。それだけで幸せな気持ちになれる。さっき見た毒の盛られた物を見たとしてもそれは気にならなかった。
「姫。俺もぎゅー」
「それは後でしてあげる」
「ホント!」
 信じられないとでも言わんばかりの顔に苦笑いする。
「私だって信じられないわよ。ウルガーの事が好きなんて。って早く夕食食べないとデザートがこないわ」
 夕食に手をつけ始めた私をウルガーは不思議そうに見ていたけれど、ウルガーもまた食事に手をつけ始めた。
 その日はまだ幸せの余韻が残っていた。


あとがき

この後にも一波乱の序曲が。毒もり犯人の話が。もっと遡ると違う話も出てくるんですが。それはネタばれになるから内緒。
あー。前記事に書いてますが。アレクサに発狂して疲れまくってます。
眠い。もう少しで出かけないと。外は暑いです。眠い。アイマスクも途中で外してしまったため、効果が半減。曲が聴きたくて叫びまくったので。

そして昨日が記念すべき80日目でした。よう続いたなぁと思います。有料記事が売れないとかメンバーシップに入ってもらえないとかいらん気を回す必要が無いので執筆に専念できます、ふつーに読んで下さればいいんです。あ。アマゾンで新しいEcho Show頼もうと思ってたんだ。8日に発売らしい。予約しとこ。

執筆は午後二話ほど書ければいいかと。何話かストックを作っておきます。
でも、頭のクリア度がひどい。あと今日、ボブカットからショートカットにするため服も似合うような物を買わないと。しまむらへゴーですわ。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?