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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:風響の守護者と見習い賢者の妹 第三十二話 リリアーナ反抗期到来

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前話

「リリアーナ。馬の上で寝るな。落ちるぞ」
「ふぇ?」
 リリアーナは目を開けて瞼をこすった。そこには賑やかな港町があった。
「着いたんだ」
 長い道のりを馬で来たリリアーナは動かない地面にキスしたくなった。
「り、リリアーナ?」
 そんな奇行に走りかけたリリアーナをセイレンが見事止めてくれた。ぽん、とレオポルトがセイレンの肩に手を置く。
「おらおら。チビども。今夜は飲めや歌えやの大宴会だ!」
「いや。おにーちゃん。セイレンの事態の方が重要でしょ!」
「あ。すまん。つい調子に乗って……」
 しゅん、とうなだれた兄を周りの漁師達が笑う。
「ほら! 笑われちゃったじゃないの。行こ。セイレン」
 セイレンの手を取って歩き出すリリアーナ。セイレンはもう口から悲鳴が出かかっている。だが、一番大事と言ったからには出せぬ、悲鳴。
 乙女に手を取られて歩くなど……。
 摂政大臣が見れば、厳しい拳骨が落ちてくるところだ。そこでふと、最後に別れた摂政大臣は命は助かっただろうか、と思う。最後まで自分を助けてくれていた。父にも祖父にも似た感情をセイレンは持っていた。
「セイレン?」
 リリアーナが顔をのぞき込んで顔が間近だ。今度は悲鳴が出る。
「こっちだ! ニコさっさと捕まえてこい!」
「人使いの荒いヤツだ。リリアーナ様、セイレン! 勝手に歩いてもどこにも行けないですよ。ユレーネ様が財布のヒモをしっかり握っているんですから。今日の宿はこちらです。って、レオポルト勝手に決めるな!」
 一軒の宿に入ろうとしていた主君に怒鳴りつける。これでも一応は古くからの親友同士。臣下の域を超えているのだ。それを知っている人間はわずかだが、リリアーナはよく知っていた。
「おにーちゃん。ニコの言うとおりにしないとのたれ死よ」
「お前だって知らない土地を恋人と手を繋いで迷いかけていた癖に!」
「おにーちゃん!」
「なんだ。文句あるのか!?」
「おにーちゃんなんて知らない! おねーちゃんニコ、おにーちゃんは置いてけおぼりして行きましょ」
 リリアーナがユレー達の手を引く。その後ろでショックを受けているレオポルトがいた。
「リリアーナが口答えした。嫌いって言った……」
「だから、反抗期と思春期よ。兄なら通る道よ。リリアーナには異性より同性のほうがほっとするのよ」
 戻ってきた妻がいう。
「セイレンの手をとってか?」
 もう、雨に濡れた拾ってください、子犬です、なレオポルトだ。
「だから恋人は別よ。その内一緒に洗濯しないでとか言い出すから」
「洗濯まで……」
 さらにガーンと落ち込む王様だ。
「アイシャードが入れ知恵したんだな。俺の可愛いリリアーナを返せー」
「ここで叫んでも聞こえないわよ」
「これ使って叫ぶ?」
 いきなりひょこっとリリアーナが姿を見せて悲鳴を上げる兄である。
「心配しなくても洗濯物を一緒に洗っても嫌じゃないわよ。お姉ちゃんの物も洗うんだから。光熱費は安く上げなきゃ」
「光熱費なんて言葉どこで……」
「そんな事はどーでも良いでしょう? ほらニコが呼んでるよ。行こう。おにーちゃん」
 リリアーナがレオポルトの手を取って走り出す。反抗期と思春期には入りかけているが、リリアーナだけが知っている兄の苦労を見てきている。父親代わりになって育ててくれてきた兄を突き放すことはない。それだけあの兄妹は強く結びついている。自分もそんな娘や息子が欲しい。
 
 この件が終わればいつか……。
 
 ユレーネは賑やかな港町の空を見上げていたのだった。


あとがき

妹御がご乱心の上、妻も夢想にふける。どうなってる、この家族。とまぁ、書き手は思うのですが、背負ってるテーマが重すぎてつい反動でラブコメが。ラブにもいかないのですが。出自のテーマが重すぎてあまり前に出せません。ラスト辺りでリリアーナは解決しそうですが。セイレンも。残るはレオ。でも相手が生きてないと解消しない感情ってあるでしょうね。アイシャードの出番か。重そう。なんでこう重いの? 書き始めて思う書き手。これもここで改稿しちゃったから原稿をコピペしないと。明日、また明後日の分書けるかしら。困ったわー。と。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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