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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:風響の守護者と見習い賢者の妹 第二十八話 「親と子」切っても切り離せないもの

前話

「おい。セイレンの装備ができたと、連絡が入ったぞ」
 避暑地の宮殿にニコがどかどかと荒っぽく入ってくる。
「お前、もう少し静かに入れんのか。熊か」
 旧友のレオポルドに突っ込まれてニコは苦笑いをする。
「ここは自宅と一緒なもんでな。でフロリアンの所に行かないのか?」
「もちろん。行く。セイレン。装備ができあがった。着替えてこい!」
「はい!」
 少年らしい声を出して着替えに戻る。その後ろ姿を目で追うリリアーナにレオポルドが釘を刺す。
「着替えシーンを覗くなよ」
「惜しい!」
「何が惜しい! だ。振られてもしらんからな」
「えー。お兄ちゃん。かばってくれないのー? こんなに可愛い妹なのに」
「かばうのはセイレンの方が正しい。お前も着替え覗かれたかないだろうが」
「え。セイレンなら……」
 どかっ。兄の鉄拳が炸裂する。
「馬鹿な事言うんじゃない。セイレン、着替えたかー!」
 ドでかい声で叫ぶとセイレンが走ってくる。
「はい! 着替えました! イーカムに乗れるんですね」
 嬉しそうな顔にまたレオポルドが頭を抱える。
「お前もイーカム大好きっ子か。リリアーナに毒されたな」
「ひどーい。お兄ちゃん! 私も着いていくー」
「これはセイレンの話だ。お前は魔法でも磨いていろ。セイレンの装備ができあがったらマーブルヘイブに行ってエンシャンドウッドに向かうぞ。アイシャードの旧友がいるそうだ。そこでお前らには魔法の修行をしてもらう。何やら、変わった魔術があるらしい。それを習得できるのは、リリアーナとセイレンだけだそうだ」
「へぇ-。変なの」
「じゃ、ユレーネ。リリアーナを頼む」
「はいはい。さ。リリアーナ。女子会しましょ」
「わーい。お姉ちゃん大好きー」
 尻尾を振ってユレーネとローレライの所へ行くリリアーナを寂しそうに見るセイレンである。
「いつかくっついて離れないときが来るさ」
「そうでしょうか……」
「じゃ、婿やめるか?」
「それは……! 嫌、です」
「だろ。じゃ、早速行こう」
「はい!」
 また表情を明るくして答えるセイレンである。レオポルド達の中に入ってセイレンの中でも変化が起こっているようだった。
 
 無理をしなければいいんだが。
 
 リリアーナもどこかで無理をしている。母、マルタの事で悩んでいるようだ。リリアーナとしての人生を選んだとしても産んだ母は一人だけ。そこは変わらない事実だ。切り捨てた母のことを最近悩んでいるようだった。レオポルド自体も母は早くに亡くなり父は、自分が会いに行く前に自死してしまった。王が牢に入ることを恥じていたのかもしれない。そして一方は国を取り戻した息子が立派になって会いに行こうとしていた。合わせる顔も無かったのだろう。だが、まだ、親子としてやり直せたかもしれなかった。悔いが今も残る。
「お兄さん?」
「ああ。悪い。少し考え事をしていた。さぁ。こっちだ」
 宮殿のバルコニーの窓を開ける。そこには巨大化したイーカムが待っていた。ニコとセイレン、そしてレオポルドは装備を頼んでいたフロリアンの工房へと向かったのであった。


あとがき
第一部を読まないとわからない話ですが、この物語の柱の一つ、アイデンティティーの問題が出てきました。アイデンティティーとは自分の根幹となる所、場所。人などです。どこから自分は来たのだろか、と思う時がそうです。出生のことから心の中の事までこんなことがあるのです。日本人はわりかしアイデンティティーがあまり強くないです。八百神の国の日本は自分がどこからきてという確たる物を持つ必要もなく多様な世界に生きてきたからです。一神教の国の方がこの問題は大きくなります。特に欧米です。この辺のことは詳しく覚えていないため、論ずることはできませんが、ちょくちょくこの問題がでるので、まぁ、二部から覗いた方には申し訳ありませんが第一部ありきといういうことで。と小難しい話でした。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

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