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【未完小説(完結を目指します)】とびっきりの恋をしよう! 第二部 第四話 太陽と月の隠世

前話

 それから、サーコは毎日ラジオ体操をしてはレンに止められる。だが、懲りずにラジオ体操をしているサーコである。
そして、レンたちは調べていたが、月の育成の仕方や卵のことに関してはまるきり記述がなかった。ただ、月の女神が産み落とした太陽の子に代々受け継がれたのが月のしずく、という石だということはわかった。その月の女神ももういない。何度も太陽と月は生まれ変わってきていた。そのたびに世はどちらかが優勢で月の世、太陽の世、と言っていたらしい。そしてある時、太陽に恋した月の女神は太陽と共に昇り、沈み、世は二つから一つにまとまったという。それがあの、二人の男神と女神らしい。その次の代の太陽と月をサーコとレンが孵化させなければならないということがわかった。
 それを知るとサーコは早く、太陽の間に行こうとせっつく。この間、育成に行こうと言ってそのままにしてある。
次第にサーコの顔が不機嫌になっていく。
「おい。またぶーたれてるのか?」
 レンがふくれっ面のサーコの頬をつつく。
「だって。レンが行ってくれないんだもの」
「だから。サーコがまだ完全に復帰できてないから……。おわっ。サーコ! どーした」
「レンなんてしらないっ。サーラ!!」
 サーコがサーラを求めて飛び出していく。
「おい!」
 後を追いかけようとするレンの後ろからレガーシの声がかかった。
「いい加減、行ってもいいのではないですか? 世間では太陽の隠世に大騒ぎのようです。月もそのようで。動揺が世界に広がっています。育成を進める方がいいかもしれません。サファン皇子の方にも太陽の乙女が出現しました」
「なにぃ! 太陽の乙女は何人もいるのか?」
 レガーシに食いついてレンは問い詰める。
「皇子。落ち着いてください。太陽の乙女は一人きり。異世界から来た少女と決まっています。サファン皇子の太陽の乙女は異世界から来ていません。私たちと違う気配を持った人間はサーコだけです」
「どうしてそれがわかる?」
 レンもいつしか冷静になって考え始めていた。
「異世界の扉があいたのはサーコがこの世界に来た一度きり。その後も前もその気配はありません。サファン皇子のもとへ異世界の少女が来れば、私が異世界の扉が開いたことを感知します。しかし、その気配はありません。傀儡というべき哀れな少女が一人いるのでしょう。さぁ、サーコも落ち着いたはず。行ってらっしゃい」
「あ、ああ」
 突然肩をつかまれてくるりと向きを変えられる。そしてぽん、と背中を押される。レンはサーコとサーラがいる場所に駆け出して行った。

「ええい! まだ、太陽の卵と月の卵はみつからんのかっ!」
 大臣が大声を貼り続けていた。近くにいる部下は何も言うまいとそっとしている。癇癪持ちのこの大臣に何か言えばとばっちりが来るのは目に見えていた。それでやめていった人間も多い。普段はいいのだが。だが、この大臣も最近悪いうわさが立ち始めていた。サファン皇子派に属したころから。
「おや。今日も大臣殿は大声を張り上げておられるか」
「じじぃ! 何しに来た!」
 じじぃとは無体な言葉である。これでも前天文庁長官で、太陽のことも月のことも熟知している国にとっては重要な身分の老体であった。跡目を息子にして今は、隠居している。
「サファン皇子の太陽の乙女は何と申しておられるのか?」
「じじぃに……」
「なんと?」
 鋭い視線を投げられて大臣は一度口を閉じた。それから観念したように言う。
「太陽の乙女は祈りの時間がまだ必要、と……」
「ほう。そうか……。では、わしはこれで……」
 なにやらにんまりして背を翻した老体を大臣は呼び止める。
「何か?」
「いや……。健康にお気をつけられよ」
「この老体の健康を心配するか。気を遣わせたな」
 そう言って老体は大臣の目の前から去っていく。大臣はその後ろ姿を忌々し気に見る。老体はレン皇子派だ。敵に不利な情報を与えるつもりはない。まさか……。大臣は太陽の乙女を一度連れてきたレン皇子を思い出す。たしか、サーコといった娘だったか。あの娘が……? まさか、ただの小娘に何もできるはずもない。ただ、この世界の太陽と月は光が日に日に弱っていく。急がねば。
「サファン皇子の太陽の娘以外に太陽の娘というものがおれば探してまいれ! 急げ!」
 家来に無理難題を突き付けて蹴散らす。サーコに言わせればパワハラだ。部下は散り散りになって探しにでかけた。

「なぁ。悪かったって。俺は心配で……。でも、レガーシもそろそろと言ってるし。育成に行こう。約束を反故にして悪かった」
「しらない! レンなんてっ。育成でもどこでも行けばいいじゃないのっ」
 そう言ってサーラに抱き着いて泣く。
 サーコはこんなに涙もろかったか? 最近のサーコは感情的だ。それをフォローするのも自分のはずだった。だけど、サーコはサーラに助けを求めた。
 俺、なんのためにいるのかな。疑問がわく。
 笑顔のサーコが一番好きだった。泣かせてしまった自分がひどく嫌になる。守ろうと決めたのに。
 いつしかレンはうつむき、両手を強く握って歯を食いしばっていた。そうでもなければ泣いてしまいそうだった。それはしたくない。兄の死から泣くことをやめたレンはもう泣きたくなかった。うつむいていると、サーコの声が降ってきた。
「レン。どうしたの? 黙りこくって。掌に血がにじんでる。何が起きたの?」
 サーコはレンの手をとると掌をかざす。柔らかいあたたかな光を感じてびっくりして掌を見ればもう、傷はなかった。
「俺たち、別れたほうがいいのかな……?」
 傷の消えた掌をまたぎゅっと握りしめるとレンは小さく言う。
「俺はサーコを泣かせてばかりだ。過保護にすることしかできない。サーコを泣かせっぱなしにするくらいなら……」
「くらいなら?」
 サーコは怖かった。レンにあった眼の光が消えていた。
「いや……。これは言わない方がいい。悪かった。サーコ」
 そう言って背を翻す。その背中に縋り付きたくなったが、できなかった。一人にしてくれ、と背中がサーコもレガーシもサーラも拒絶していた。
「レン」
 なんとなくレンが泣いている気がしてサーコの頬に涙が一筋伝う。サーラがそっと拭ってやる。
「サーコ。私が行ってきます。少し、すれ違いが生じてしまったようですね。恋人にはよくあることです。気を落とさずに……」
「はい。部屋に戻って休みます」
 いつもの言葉使いになれなかった。なんだかサーコはこの世界に置き去りにされた異邦人の気がしていた。レンとは違う世界の人間。対の恋人ではないのかもしれない。サーコは部屋に戻ってベッドに飛び込むと枕に顔を押し付ける。レンのちょっと怒ったような顔が浮かんでは消える。
「どうして、笑顔を思い出せないのよ……」
 サーコは声を上げて泣いた。


「レン皇子! 思いつめるのもたいがいにしなさい! サーコがまた泣いてましたよ」
 レガーシはレンに追いつくと腕をとって自分の方向に向かせた。
「ちょっとしたすれ違いぐらいで死なれては困ります。月の息子です。あなたは」
 無気力な表情をしていたレンははっとしてレガーシを見た。
「どうして俺が今、死にたいと思っているかわかったんだ?」
「お母様が亡くなった時、自分も死んで追いかけると言った幼いレン皇子と同じ目だからですよ。誰かが止めないと今のレン皇子は簡単に死ねます。道具の剣を持ち歩いているんですからね。サーコがどれほどの犠牲を費やしてあなたを選んだか。それをもう忘れてしまいましたか? これから覇王と王妃になればもっと過酷なことが待ってます。サーコは人の死に慣れていません。そんな女の子が覇王の妻になるには厳しすぎます。覇王は時として残酷な選択をしなければなりません。その時傷ついたサーコを救えるのはあなただけです。二人は過酷な人生を送るのです。その初めにこんなことぐらいでわかれようとは……。しっかりなさいませ!」
 軽く頬をはたかれ、レンははっとした。あの戦場にサーコを連れていくつもりはない。けれどもそのことはわかるのだ。サーコに。血の付いた鎧や剣を見ることによって。
「サーコ!」
 レンはレガーシの手を振りほどくと館の中に戻っていった。
「やれやれ。さて、私は潜入者を防ぐ、迷路と屋敷を消す結界でもつくりましょうか」
 レガーシはそう言って天幕のある部屋へ向かった。

「サーコ。寝てるか?」
 ノックして扉に耳を当てる。サーコのしゃくりあげる声が耳に届いた。とっさに扉を開けて泣いているサーコをひき寄せて抱きしめる。
「サーコ、ごめん。俺が悪かった。俺、もうサーコに嫌われたと思って……。嫌われるくらいなら……」
「……なら?」
 しゃくりあげながらサーコが聞く。
「死んで消えてしまおうと思った」
 小さな小さな声の告白がサーコを貫いた。
「レン! ごめんなさい! 私が駄々をこねただけなのに! レンはどこも悪くないのに。レン! お願い。おいていかないで。もう育成に行くって言わないから。だから。だから……」
 声をあげて泣き出したサーコをそっと抱きしめる。
「死なない。死なないから。レガーシに叱られた。これぐらいで死ぬな、って。俺たちの道は過酷なんぞ、って。これぐらいで死んでどうするんだ、って。俺、本当は弱い奴だ。母上が死んだ時もこうして死を選ぼうとした。あの時もレガーシが止めてくれた。だけど、今の俺は自殺が容易だ。あの頃はどうやって死ねばいいのかもわからなかった。それでレガーシに軽く気合い入れられた。そんなこと考えてる暇があればサーコのもとに行って育成でもなんでもしろって。明日から育成に行こう。月の卵を置きに行こう。世界は太陽と月が隠れそうになって大騒ぎのようだ。このままじゃ、真っ暗な世界になる。その前に太陽と月を作ろう」
「レン? どうしてこの館の外のことを知ってるの?」
「レガーシもそれらしいこと言ってたし、俺、伝書鳥を持ってるんだ。手紙で老体が知らせてくれた。サファン兄上に太陽の乙女が来たとも。あちらは育成していない。卵すら手に入れていないらしい。俺たちが本物だ。正真正銘の太陽の乙女と月の息子だ。育成して見返してやろう。サファン兄上は卵を奪いに来るかもしれない。その前に天の空間に置きに行こう」
「レン。老体って」
「宮中が俺とサファン兄上に二分されているのは知ってるだろう? 俺を主とする一派の中に天文庁の長官だった隠居がいてな。俺の母上の父親だ。月のしずくもそこから来ている。じぃちゃんは最初からこっちが正真正銘って知ってるんだよ。だから俺の味方していろいろ手を回してくれている。ただ、身分的には隠居のじぃちゃんで王権とは切れているから老体とみんな呼ぶんだ」
「レンは一人きりじゃないのね。よかった」
 孤独のつらさをサーコは身に染みていた。一人でも家族はいたほうがいい。レンの胸に顔をうずめてサーコはレンの香りを吸い込む。安心感がひたひたと押し寄せてくる。
「レンの香り、ほっとする。レン、大好き。愛してる」
「サーコ。……。俺もだ。サーコの髪の香りもほっとする。俺たちやっぱり二人で一つなんだな。俺もサーコだけを愛している」
 二人はじっと見つめあう。不思議な感覚にとらわれる。そのままベッドへ倒れこむ。と、とたんに扉が開く。
「サーコ! レン! まだそれは早いですわ!! さっさと出てきなさい」
「え?」
「ほへ? 俺たち今……?」
「わかってないのですか? この事態を!」
「わぁ!」
 サーコを押し倒していると気づいたレンが飛びのく。サーコも頭がぼーっとして何をしていたかも覚えていない。
「さ、サーコ。サーラにしばき倒される前に帰るわ。じゃ、明日から、育成、な」
 レンが飛んで出ていく。サーラが殴り倒している音が聞こえる。
「えーと?」
 記憶がない。サーコはもしかして、と思うと血の気が引いていったのだった。

 年頃って怖いわね。

 つくづく、恋って難しいと思ったサーコだった。


あとがき

昨日、必死で打った第四話です。最後に書いた日から遠のいていたため、設定も語り口調も何もかも忘れていて困りました。新たな自分の中での執筆として書きました。三話とずれていたらすみません。しかも、最後の眠り姫できわどいお話が展開していたのでつられてレンもサーコもきわどいところに。でも、未遂です。当分ありません。二部の最後は思いついたので三部をどうしようかと思ってます。試練続きになるはず。貧祖な頭でこれは痛い。で、記事見出し画像変えました。なんとかアプリからプラスに入れたのでGPTで再度試行錯誤して出しました。でも著作権はないです。デザインにあっても。文章だけは自力書きなので無断転載なさらぬよう。最後の眠り姫を更新して終わりましょうかね。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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