140字小説 その676~680
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旅館は広く、そのために土産物屋があちらこちらに点在していた。一角を占めている土産物屋もあったが、多くは行商風の者達だった。この旅館は広すぎますから、渡り歩いていた方が実入りがいいんで。雨雲細工を売っている行商が、秘密を打ち明けるように教えてくれた。
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宿泊中、画家だという客と知り合った。大雨の中、露天風呂に入っている時だ。彼女はもう二年も宿泊しているそうだ。雨が空から落ちて地面に当たる、その瞬間を何億倍にも引き延ばして、その中で旅館は存在してるんです。湯船の中