鞍馬アリス

140字小説・400字小説の書き手。怪奇小説、幻想小説、怪談系。『なまものの方舟/方舟…

鞍馬アリス

140字小説・400字小説の書き手。怪奇小説、幻想小説、怪談系。『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』に「眠るイルカたち」、『RIKKA ZINE vol.1 SHIPPING』に「クリムゾン・フラワー」を掲載していただいています。BFC3に「成長する起案」で参加。

マガジン

  • 140字小説集

    140字以内で記された物語。 身近な世界に潜む不思議、憧れ、あるいは少しの恐怖。

  • 夜の唄-マイクロ本格ファンタジー集-

     夜に紡がれる、140字以内の本格ファンタジー。  美しさは短さの中に宿り、夜空に浮かぶ星のように瞬くのである。

  • 綺談集

    ついてくる日本人形。  囁く書物。  天井を流れる運河。  奇妙な物語を集めた掌編集。

  • 怪奇譚集

    怪談や怪奇小説に類する作品を集めています。シリーズものではなく、1話完結ものばかりですので、好きなものからお読みください。

最近の記事

140字小説 その416~420

416 深夜の高速道路を走っていると、背後から血塗れのトラックがやって来る。スピードを落とすと、真横を物凄い勢いで走って、すぐに消えてしまう。もしもトラックに道を譲らないと、煽られて事故を起こす。そんな話が、高速道路を走っている時にラジオから流れてきた。 417 気付くと、高速道路を走っているのは自分だけだった。前にも後ろにも、対向車線にも車はいない。高速道路は延々と伸びていて、地平線の先まで続いている。Uターンをしようと思うのだが、そのたびに近くに車の気配のようなものがし

    • 140字小説 その411~415

      411 千利休がお茶を飲んだという断崖絶壁がある。崖の中央に円い穴が開いており、よく見れば、四畳半の茶室のような設えが今も残されている。案内人によれば、千利休が自ら崖を刳り貫いて作った茶室なのだとか。期間限定でしか入ることができないのが、とても残念だった。 412 蜷川さんの茶室という廃墟が近所にある。鬱蒼と生い茂った雑草の奥に、一軒の小屋がある。小屋の扉は開いていて、中から時々、蒼白な顔色の女性が覗く。目が合うと手招きするのだが、招きに応じるとそのまま行方知れずになってし

      • 黄昏

        吸血鬼について記された本の頁で薬指を切った。傷口から溢れる血に、静かに舌をつける。痛みと共に、錆びた、しかし甘い血の味がした。耳元で、ようこそ我らが一族の許へと、美しい声が聞こえる。吸血鬼に認められたのか。幻聴を吉兆として悦んだからか。黄昏の光すら、いつになく眩しく思われた。

        • 黒帳人形

          黒い帳の奥では、人形たちの呻き声が聞こえる。人形たちは人形師に殺されている。頭が弾けていたり、四肢がなかったり、ナイフが刺さっていたり。人形の匠によって無惨に殺された人形には、何者でもない魂が宿る。彼らは無念の思いを吐き出しながら、黒い帳の奥に居場所を見つけ、呻き続ける。永遠に。

        140字小説 その416~420

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        • 140字小説集
          84本
        • 夜の唄-マイクロ本格ファンタジー集-
          22本
        • 綺談集
          3本
        • 怪奇譚集
          2本

        記事

          140字小説 その406~410

          406 その廃墟は生きていた。人が住まなくなって数十年が経過しているというのに、昼間でも生活音が聞こえた。中に入れば、美味しそうな料理の匂いがしたし、微かに笑い声も聞えた。私も昼間に音を聞いたことがある。日常の生活音が、とても恐ろしく感じられたものだ。 407 料理の遅い店だった。注文して一時間が経過しても、全く出てこない。店員に尋ねても、お待ちくださいとしか言わない。ついに二時間経っても料理が出ないので、私は店員に断って店を後にした。もうすぐ産まれますからという店員の言葉

          140字小説 その406~410

          140字小説 その401~405

          401 微睡の中で呟いた言葉が、彼の心を乱したのだろうか。目を覚ますと、彼の姿はどこにもなかった。部屋の中央には美しいほど紅い血だまりができており、家具なども滅茶苦茶になっていた。夢の中で呪文を唱えていたように思うが、その影響かどうかは、今もわからない。 402 私の眠りは微睡に似て、一瞬のことのように思える。だが、気付けば一日、あるいは数日が経過することは今までにもあった。今はどうだろう。目覚めれば建物は崩れ、生者もいない。果たして何年、いや、何世紀が経ったのか。朽ちた寝

          140字小説 その401~405

          140字小説 その396~400

          396 小学生のころ住んでいた家の近所に、地蔵屋敷と呼ばれる廃墟があった。ボロボロだが、とても大きな廃墟だった。玄関前に庭が広がり、そこにズラリと地蔵が並んでいた。百体はあったかもしれない。時々、地蔵の首が盗まれることがあり、そのたびに近所で死人が出ていた。 397 踏切近くに地蔵が祀られている。この辺りでは、死人がよく出るらしい。私も一度、死にかけたことがある。夜中に踏切待ちをしている時に、地蔵に声をかけられた。早く死んだほうが楽だよと。楽し気に言うのだ。もう少し疲れてい

          140字小説 その396~400

          140字小説 その391~395

          391 蝶によって目隠しされている。窓から見える景色の雄大さも、絹のドレスの美しさも、毎日出される料理の鮮やかさも、今の私には分からない。蝶は私の目元に食い込んで、離れてはくれない。お姉様と聞こえる翅の羽ばたきは、かつていたかもしれない妹の声に似ている。 392 夫の口から蝶が出る。彼の身体自体は死んでいるはずなのに、それを否定するかのように、色鮮やかな蝶たちが現れる。蝶たちは開け放った窓から、暁色に染まる空へと消えていく。戯れに一匹の蝶を捕まえた。標本にして壁に飾っている

          140字小説 その391~395

          竜の背中

          竜の背中に森と川がある。森の奥には、青煉瓦作りの小さな家ぎ建っており、中では娘が一人で住んでいる。娘は森の木を薪にして火を起こし、料理を作る。火は竜の背中を軽く炙る。竜はそれが嫌で堪らないのだが、娘が作る山菜焼きや炙り魚が極上なので、腹に背は変えられぬと、我慢しながら生きている。

          140字小説 その386~390

          386 家の裏手にある松の横に、人が立っている。四十代くらいの男だ。スーツ姿で、身体を半分だけ松から出して、無言で立っている。いつ見てもそこにいる。両親に尋ねても、口を濁すだけで正体を教えてくれない。大人になった今も、帰省すれば、松の横に男は立っている。 387 水晶玉の中に松の木が入っている。中では風が吹いているようで、松の枝が揺れている。樹齢千年の松ですと、店主は言う。欲しいと口にすると、どうぞと言われた。一瞬、辺りが眩しくなり目を閉じる。次に目を開けると、私は松の木の

          140字小説 その386~390

          140字小説 その381~385

          381 隣の家に誰かが引っ越してきた。名前は知らない。ブロンドの短髪が印象的な女性だ。お裾分けとして、薬草をいくつかもらった。夜中になると、彼女は出かける。黒いマントにとんがり帽子を被り、箒を持って暗闇の中へと消える。彼女は魔女ではないかと密かに思っている。 382 魔女の友人が実験をはじめた。真夜中の草原に立ち、何か呪文を唱える。彼女が呪文を唱え終えた時には、周囲は氷河期の時代に逆戻りしていた。近くをマンモスらしき生き物が何頭も歩いている。この辺りにもマンモスいたんだねと

          140字小説 その381~385

          姉の夫

          中指の先から姉の夫が生えて来た。姉は面白がって、付き合ってしまえという。そしたら離婚できるからと言うのだが、楽観的すぎる気がする。姉の夫は少しずつ成長している。今は鎖骨のあたりまで出ている。時々欠伸をするのだが、凄く癪に障る声を出す。姉が離婚したがる理由が、ほんの少し理解できた。

          ロココの花

          蜜蜂が飛び込む花の奥には、ロココ調の宮殿が建てられている。建材は全て花粉だ。蜜蜂は宮殿内で花の蜜と雄蕊雌蕊の舞姫たちの歓待を受けながら、建材である花粉の一部を身体に着飾り、また別の宮殿へと向かう。かくして蜜蜂は蜜を、花は受粉の機会を得て、花内の宮殿はますます繁栄を誇るのである。

          ロココの花

          140字小説 その376~380

          376 湯呑を置いておくと、勝手にお茶が入ってるんです。注がれるというよりは、沸くんですよね。温泉じゃないけれど。どれも温かいお茶ですね。冷たかったことは一度もありません。香りはいいんです。でも、飲めないですよね。怖いじゃないですか。勝手に沸くお茶なんて。 377 湯呑を投げる祭りを見学したことがある。秋琉という町でのことだ。大小様々な湯呑を人形にぶつけるのだ。この人形が凝っていて、本物の人にしか見えない。湯呑は、人形の顔が潰れるまで投げられる。どうして湯呑を投げるのかと尋

          140字小説 その376~380

          140字小説 その371~375

          371 授業中にセーラー服を着た少女たちが、廊下をバタバタと走り回る。楽しそうにキャッキャと笑っている。うるさいのだが、誰も注意をしようとしない。中には、青ざめてしまう先生もいる。因みに、この学校の制服はブレザー。セーラー服だった時期は一度もないそうだ。 372 借りているアパートの一室には、備え付けの箪笥がある。使えるのだが、一番下だけは使用禁止だ。誓約書まで書かされた。一番下は、時々、でセーラー服姿の女子が中から現れ、壁を抜けて消える。彼女の邪魔をすると、悪いことが起き

          140字小説 その371~375

          旅に出ます

          恋人だと思っていた魔女が、朝になったらいなくなっていた。壁にかけられた一枚の魔法陣の中央に、口紅で旅に出ますと記されている。慌てて魔法陣に指を触れると、一瞬だけ、広大な砂漠の中央を歩む彼女の姿が見えた。つまらない女と愛し合うより旅の方がマシ。いつかの晩に聞いた、魔女の言葉が蘇る。

          旅に出ます