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140字小説集

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140字以内で記された物語。 身近な世界に潜む不思議、憧れ、あるいは少しの恐怖。
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記事一覧

140字小説 その741~745

741 森の奥には廃墟の宮殿が建っていた。誰が建てたのかはわからない。粒上の小石を丹念に積み…

鞍馬アリス
1か月前
3

140字小説 その736~740

736 隠万葉集と呼ばれる書物がある。十世紀の前半に作られたもので、編者は紀貫之とされる。隠…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その731~735

731 月見をしていると、頭上で月の形が次々と変化していく。最初は満月だったのが、次第に上弦…

鞍馬アリス
1か月前
1

140字小説 その726~730

726 文字のない場所に迷い込んだ文字は、死ぬと化石になる。字石というもので、黒々とした輝き…

鞍馬アリス
1か月前
2

140字小説 その721~725

721 散文詩を得意とする詩人がある日、自分の創作ノートに目をやると、見知らぬ文字が挟まって…

鞍馬アリス
1か月前
1

140字小説 その716~720

716 夫は、存在しない島の地図を描くのが趣味だ。方眼紙に定規やコンパス、ペンを使って地図を…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その711~715

711 廃墟の屋敷には日本庭園が広がっている。建物は壊れそうなのに、日本庭園だけは綺麗に手入れがされている。もう何年も人は住んでいないそうだ。だが、誰かが手入れをしているのは間違いない。それも夜中に。別の世界と接続しているんですよと、不動産屋は力説していた。 712 水色のマッチ箱の中には、浜辺が広がっていた。指でつまむと、浜辺の一部がマッチの形になり、箱から離れる。マッチ箱の側面で擦ってみると、水しぶきと共に青い炎がついた。煙草に火はついたものの、吸うと妙に湿度が高く、

140字小説 その706~710

706 山がおかしいのか、博物館がおかしいのか。それは分からないが、時に博物館が街へ移動する…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その701~705

701 博物館は山の中にあり、深夜になると動き出す。住み込みの学芸員は、真夜中に博物館が動き…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その696~700

696 蒼宮殿の異変に気付いたのは、使用人の娘であった。壁や廊下に見知らぬ植物が咲き誇ってい…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その691~695

691 植物図鑑に掲載されている植物は、若き王子が目にしたことのないものばかりであった。それ…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その686~690

686 紅茶の入ったティーカップが廃墟の中に置かれている。たった今、誰かが淹れたかのように湯…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その681~685

681 土手の上を歩いていると、遠くから汽笛が聞こえる。線路は敷かれておらず、細長い道が続い…

鞍馬アリス
1か月前

140字小説 その676~680

676 旅館は広く、そのために土産物屋があちらこちらに点在していた。一角を占めている土産物屋もあったが、多くは行商風の者達だった。この旅館は広すぎますから、渡り歩いていた方が実入りがいいんで。雨雲細工を売っている行商が、秘密を打ち明けるように教えてくれた。 677 宿泊中、画家だという客と知り合った。大雨の中、露天風呂に入っている時だ。彼女はもう二年も宿泊しているそうだ。雨が空から落ちて地面に当たる、その瞬間を何億倍にも引き延ばして、その中で旅館は存在してるんです。湯船の中