140字小説 その681~685

681
土手の上を歩いていると、遠くから汽笛が聞こえる。線路は敷かれておらず、細長い道が続いているばかりだ。近くに鉄道が通ったとも聞かない。妙な心地でいると、汽笛の音が近づいてくる。やがて、一際大きな汽笛と共に、真横を何かが凄まじい勢いで通り過ぎていった。

682
黒々とした宝石箱の中には、名前の分からない宝石が入っていた。青色の石からダラダラと黒い液体が流れている。液体は宝石箱を満たし、その底で何か青いものが蠢いているように思えた。宝石箱は母の遺品であったが、親族とも相談をして、ゴミの日に捨ててしまった。

683
歩道橋の上に道化師が立っている。薄紫色の衣装を身に纏い、マジックをしている。他の人は道化師に目もくれない。まるで、道化師なんて存在していないかのようだ。しばらくマジックを眺めていると、急に道化師が交代しないかと尋ねてきた。だから、私は道化師になった。

684
バナナの皮を剥くと、見たこともない花が現れた。白を基調とした花弁が印象的だった。バナナの花だよと同居人が言った。さも当然のことのように。食べれるようなので口に入れてみる。パサついたバナナの味がした。千年に一度咲く花だから、運がいいよと同居人が言った。

685
レシートを貰うと、一番下に必ず自分の余命が記されている。余命三十年の時もあれば、余命七日の時もある。余命はその時々によって変化する。余命三時間の時もあったが、三時間後も普通に生きていた。だからきっと大丈夫。余命ゼロと記されたレシートを見ながら呟く。

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