140字小説 その741~745

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森の奥には廃墟の宮殿が建っていた。誰が建てたのかはわからない。粒上の小石を丹念に積み上げて作られた建物は、一つの粒が抜けても一気に崩れてしまいそうな脆さを湛えていた。だが、それにも関わらず数世紀の間厳然としてそこにあり、いまだ崩れてはいないのである。

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バーの中央には梯子段がある。客は立ち入り禁止になっている。時々、この梯子段から人が降りてくる。首に荒縄を巻きつけて、ボンヤリとした目をしている。老若男女様々で、毎回人が変わる。バーの店主に尋ねてみても、そういう場所なんですよとしか教えてくれない。

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祖父は廃墟が好きだった。わざと自宅を廃墟のようにして、庭も手入れをほとんどしなかった。だから、祖父の家はお化け屋敷と呼ばれていた。今、この廃墟には誰も住んでいない。祖父は数年前に亡くなった。なのに、廃墟の中で生活音や声がするという噂が後を絶たない。

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修学旅行で泊まった旅館は、異様に広かった。通された部屋も五人が寝るには広すぎたし、トイレに行くにも延々と続く廊下を歩き続けないと辿り着かなかった。旅館に泊まったのは一日だけだったが、二人ほど行方不明者が出たという噂もある。あくまで、噂ではあるのだが。

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借家全体に蜘蛛の巣が張っている。綺麗にすれば大丈夫ですよと不動産屋は言っていたが、本当に大丈夫なのかと不安になる。蜘蛛の巣は、どれだけ拭っても、目を離した隙に再び張っている。最近、自分の顔にも蜘蛛の巣が張るようになり、少し怖くなってきている。

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