ザ・ワールド

学生時代、授業中なる時間が私には退屈すぎて苦痛で仕方がなかった。いつまでたっても時間が進まない。

そこで私は逆転の発想を用いて己の能力向上を目的とした時間の有効活用を編み出してしまった。時間が進まないのであれば、止めてしまえと。

利き手の五本の指をちょこっと曲げて、かざしてふんばるというか念じるというか、内なる者に身をゆだねると、なぜか勝手に私の体は動き出し、己の力の解放の手段を知っていた。知らんけど。

天地創造から現在までのイメージを刹那に圧縮し、時空の歪みを第六感で知覚した次の瞬間、私は目を見開き、世界にアプローチを試みた。「時間よ止まれ」と。

能力の発動後、鈍った五感、乱れた呼吸を整えながら、ピクリとも動かない世界を想像しつつ、閉じていたまぶたをゆっくり開くと、ピタリとも止まっていないヨボヨボのおじいちゃんが日本史の授業を続けていた。念仏である。

その後も力の暴走を防ぐために、もう一方の手で手首をつかんで固定してみたり、突き立てた二本の指をコメカミにぶっさしたり、カンチョーのポーズなどで世界にアプローチを試みたが、時間が止まることはなかった。

時間が止まることはなかったが、いい退屈しのぎにはなった。授業終了のチャイムの音を期待しながら時計を見ると、まだ半分の半分の時間も過ぎてはいなかった。……いくらなんでも遅すぎるだろ。

時間は止まらない。どれほどの後悔を重ねていても、退屈な日々を過ごしていても、不安な未来に怯えていても、やり直したいと願ってみても。……いくらなんでも早すぎるだろ。

凡人として生きる今の私にできることは、自動ドアに手をかざして、さも己のアナザーパワーでやってのけたとイメージプレイするくらいが関の山である。


それでも扉は開かれる
私は今日も前に進んでゆく
既知なる世界で
未知なる世界へ

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