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イールバース

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すべてはイールなのだ
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#イールバース

こうして、ちまきにウナギを入れることになったわけ

こうして、ちまきにウナギを入れることになったわけ

「頃襄王様、どうかもう一度お考えになってくだされ!」
「くどいぞ屈原!貴様のくだらない戯言に付き合うつもりはない!」

楚懐王の息子、現楚国王である頃襄王が杯をドッと卓に叩きつけ、酒がこぼれた。

「この前秦との戦争をなんとか回避したばかりなんだ。蛟龍討伐などでに兵を動かせたらまた睨まれてしまうだろうが!」
「しかし一刻もはやく蛟龍を駆除せねば、汨羅江沿いにの住民にさらなる被害がっ」
「くどい!大

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タピオ・カーン UNDER THE SEA

タピオ・カーン UNDER THE SEA

鹿児島県屋久島、のさらに南の方のとある離島。水深30メートルの海底にひとりの人影がいた。

泳いでいるのではなく、スパイクが付いた靴で岩礁を踏みしめて歩いている。纏っているのは潜水服ではなく、重厚なフルプレート。手には水中銃、背中にトライデントを背負っている。酸素ボンベの類が見当たらず、ヘルメットから泡が一切立てていない。

地上侵略のために送られたアトランティス人の斥候か?死した船乗りか漁師の怨

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来たぞ我らのウルトラ鰻

 日本、どこかの川口。十六夜の夜。マリアナ海溝から北へ流れる黒潮に乗って、長い旅を経りここにたどり着いた今年最後のシラスウナギたちは岩の隙間に身をひそめ、つかの間の休憩を取っていた。

「はぁー長かったぜー」
「先輩たち、無事で上流に辿りつけたでしょうか?」
「もう途中でおっ死んだりして」
「もしくはもうニンゲンに捕まって死ぬまで肥育されてりして」
「アハハハ! ありえるぅ!」
「やあやあ皆さん本

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聖戦士、リーの誕生⑤

聖戦士、リーの誕生⑤

「し、死んだ、って」
「うん。きみが殺したんだよ」

 ガブリエルはそう言い、2枚目のプレッツェルを摘んで口に運んだ。カインはアベルを見つめた。弟の顔がひどく腫れて、頭皮に数か所痛々しい裂傷が開いていて、半開きの目が瞬くことなく虚空を見つめている。呼吸による胸の起伏運動も見られない。確かに、かなり死んでるっぽい。

「はっ、あぁ……あっあっ……」

 カインは青ざめた。

 カインはこれまでの人生

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聖戦士、リーの誕生④

聖戦士、リーの誕生④

「おがっ!?」

 カインがやぶれかぶれに振り上げた顎骨にアベルの頭側部を殴った。「てぇっ!」アベルは反射的にカインの首を絞めていた手を戻して頭を抑えた。「ホハァーーッ」気管が疎通カインは力一杯に息を吸った。新鮮な空気を肺に充満し、酸素が全身に駆けめぐり、力が身体中に充満する!

「ヌンッ!」「おわっ!?」

 カインは両足でアベルの下半身を挟むようにホールドし、コアマッスルをフル稼働させ腰を右へ

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聖戦士、リーの誕生③

聖戦士、リーの誕生③

「カイィィィィィィーーンッ!!!」

 朝方の農園にアベルの怒号が轟いた。

 カインは燕麦の脱穀作業を止め、顔をあげた。農園の入り口にアベルが居た。顔が赤らんで、太い血管が浮かび上がり、肩が上下に動くほど呼吸が荒い。マジギレだ。

「てめえだろ! イールをやったのは!」
「……何の話だ?あとでめえとはなんだ?お前の兄だぞ」

 脱穀棒を肩にかけ、カインは額に浮いてる汗を手の甲で拭いた。その落ち着

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聖戦士、リーの誕生②

聖戦士、リーの誕生②

 カインが己の不甲斐なさに悔やんで、嗚咽していた頃、アベルは家の台所にいた。

「アンジェ、今日はきみを頂くことになる」
「いいえ、また川口に迷っていたシラスウナギだった私がもしアベルさんと出会わなったら、とっくに他の魚や鳥に食べられて、何もなせずに死んでいたんでしょう。アベルさんが拾ってくれて、おいしいミミズを毎日くれたおかげでこんなに元気に育ちました。アベルさんのためなら、喜んでこの身を捧げま

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聖戦士、リーの誕生

聖戦士、リーの誕生

🐍まずはこちらをご覧になることを強くお勧めします🐟

 アダムとイブはイールを食べすぎたせいで神の怒りに触れ、聖地エデンから放逐された。カプリエルが残した『ゴージャス旅PREMIUM:イタリア編(先史~一世紀)』だけを頼りに、長男のカイン、そして生まれてから一年の次男アベル四人でイタリアに向かって旅立った。一家は無事にイタリアにたどり着き、現在のウーディネに当たる位置に農園を建てた。新生活が始

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Nothing is expensive more than free eels

Nothing is expensive more than free eels

 カウンターの向こう、職員のおばさんが改名の申し込む用紙と俺の顔を交合に見合わせて、呆れた
「あんたもアレか?寿司屋のイベントのやつで?」
「はい」
 そいうでないとわざわざ理由の欄に「無料でウナギ食べたいから」と書く人がいないでしょう。
「だめなんでしょうか」
「だめではないけど、こんなフリガナは本当にいいのかね?」
「はい」
 はぁー。とおばさんはクソデカイ溜息した。
「まったく今時の若者は何

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イールイーター宇凪!

イールイーター宇凪!

「見て花崎君。この池に以前いなかったイールがいるわ」

 小さめの眼鏡をかけた白衣の女性は、屈みながら小学校の池に蠢く黒い影を指さした。

「ああ、ほんとっすね。松浦先生。で、これがなんなんっすか?」

 花崎は気のない返事をしながら、後ろから松浦の豊満な胸に視線を向けていた。立っているより屈んだ方がより、体の線がハッキリし艶めかしい。この豊満を持ちながら飛び級をし大学を卒業、自分と同じ歳で先生。

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