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マンガ『ファンシィダンス』という軽やかな“禅”

ひき逃げ事故を起こした伊藤健太郎さんが、舞台『両国花錦闘士』の主演を降板するそうです。ほぼ全裸なまわし姿も話題なだけだっただけに、残念(舞台自体は代役を立てるようです)。

『両国花錦闘士』の原作は、『陰陽師』などで知られる岡野玲子さんのマンガ(1989-1990)。スー女などという言葉がない時代、大相撲力士たちの日常と恋愛を描いた相撲コメディで、内幕的なディテールの細かさもあり、時代を先取りしていました。

そんな岡野さんの最初のヒット作が『ファンシィダンス』(1984-1990)。バブル真っただ中の時代、禅寺で禁欲生活を送る主人公の、修行と恋を描いた仏教コメディでした。

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それまでピンク映画を撮っていた周防正行監督が、一般映画初進出作品として映像化。主役にはアイドルだった本木雅弘さんを抜擢。映画としては粗削りながら。後の『シコふんじゃった。』、『Shall we ダンス?』の大ヒットへつながる作品となりました。

禅寺というとNHKのドキュメンタリー番組で見るような、厳しいものを想像しがちですが、漫画で描かれるのは『両国花錦闘士』と同じくその内幕。どんな世界でも、表もあれば裏もあるというところをコミカルに描いています。

しかし、そこで終わらないところが岡野先生。修行と煩悩(恋)の狭間で揺れつつ、徐々に成長、禅(仏教)の神髄に近づいていく主人公は、パチンコ店で恋人にこんな事をいいます。

ぼくは、ずーと考えてたんだ。もし真理というものが存在するとすれば、それはすべてのものに等しく存在するんだってね。愛とかココロとか霊とか不安定なものじゃなくて。(中略)それは原子の世界まで行けば見つかる。カタチは球、ウゴキは円。そしてそれは星の世界にも共通する

修行一筋の道ではなく、最後は恋人の手を取った主人公。ラストカットにはこんな言葉が。

ぼくは ぼくたちは 身軽でありたい しなやかでありたい したたかでありたい そして繊細でありたい そうして歩く 歌いながら 気まぐれに踊るように

なんだか、一休宗純みたい。“禅”という自由、あるいは自在な境地。



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