エモい言葉「打算」

本やドラマ・映画、ラジオなどで、感情を動かされる「エモい言葉(話)」。そんな言葉の中から、記憶に残るものを書いた備忘録。

放送中のドラマから前フリを2つ。『あのコの夢を見たんです。』第5話から。上司が仕事の失敗の責任を、同僚・佐久間に押し付けるのを、一旦は見てみぬふりをした会社員・山里が、最後に上司に啖呵を切るシーン。

「違う…違うと思います。佐久間を裏切ったあんたも、それを鵜呑みにして陰口叩いたあんたらも、俺は大嫌いだ。でも一番は、俺は、俺が大嫌いだ。俺だけが知っていたのに、見てみぬふりをして佐久間を見捨てた。責任を取るべき人は、もっと他にいると思います」

もう一つ、『35歳の少女』第1話。将来への希望に満ちた小学生が、事故で昏睡状態に。25年ぶりに目覚め、35歳になった“少女”に、かつての同級生はこういいます。

「今はお前が夢見てたような未来じゃねーんだよ。温暖化やら差別やら原発やら、一杯問題があんのに、そういう物には目をつぶって、皆自分が得する事ばっかり考えてんだよ」。

ここからが本題。高橋和巳さんの『我が青春論』から。高橋さんは小説家で中国文学者。左派でしたが三島由紀夫さんらとも交流があるなど、懐の広い人で、全共闘時代によく読まれました。1971年没。

「表立って犯罪を犯したり、なりふりかまわず転向したり、人に取り入ったりする人はそう多くはない。しかし、ひそかに心中に権威に屈服し、自己の利益のみを打算するようになってゆく人は少なくない」

「むろん青年期にも打算はあり、裏切りはあり、屈服はある。だが、彼らは打算や裏切りや屈服を、当然のことだとは少なくとも考えない。その一点によってのみ、全ての未熟さは償われる」

学生の頃に読んで感銘を受けた文章ですが、社会に出るとさらに沁みる言葉ではあります。汚れっちまった悲しみに、なすところなく日は暮れる…か。

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