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映画日記『線は、僕を描く』

週一で映画館に足を運ぶ新習慣の第13弾。今回は、横浜流星さん主演『線は、僕を描く』。砥上裕將さんの小説を、『ちはやふる』シリーズの小泉徳宏監督が実写映画化。共演に清原果耶さん、三浦友和さん、江口洋介さん。

先週末に公開され、映画観客動員ランキングでは5位スタート。水墨画の世界が舞台ということで、人気コミック原作の『ちはやふる』ほどのヒットは難しそうですが、より深い世界を描いていて素晴らしかったです。

大学生の青山霜介(横浜さん)は、絵画展設営のアルバイト中に水墨画と出会い、白と黒のみで表現される世界に魅了される。水墨画家として知られる篠田湖山(三浦さん)に声をかけられたことをきっかけに、霜介は水墨画を学び始める(シネマトゥデイより抜粋)。

以下、ネタバレあります。

主要人物は4人。ある出来事により心に傷を負った霜介、水墨画の大家である湖山、湖山の孫で気鋭の水墨画家の千瑛(清原さん)、湖山の弟子の湖峰(江口さん)。三浦さんの円熟味、江口さんの相変わらずのいい兄貴ぶり、少女から大人へと変貌を遂げた清原さんの凛々しさ、そして横浜さんの熱演。主要人物が皆いい芝居をしていました。

例えば、漫画『とめはねっ! 鈴里高校書道部』が、一般には馴染みの薄い書道の世界を一流のエンタメ作品にしたように、恐らく多くの人が接することが少ない水墨画の世界に、楽しく誘うところでまず引き込まれます。

最初は戸惑いながら湖山のもとに通っていた霜介が、スポンジが水を吸収するかのように上達、次第に水墨画にのめり込んでいく姿がテンポよく描かれます。

原作は読んでいないのですが、改変がいくつか行われているらしく。最も重要な点は霜介の心の傷となった出来事についてでしょう。清原さんが主演した朝ドラ『おかえりモネ』にも通じるもので、実際ちょっと彷彿とするシーンもありました。予告編でも出てくる霜介のセリフ。

思い出すと辛いのに 忘れることもできなくて 僕は立ち止まったままです

湖山は手取り足取りで教えるわけではなく、アドバイスも雲をつかむような話をするのですが、自分なりに解釈すると、人知の及ばない自然が相手の水墨画では、自分と向き合う中で、自分だけの線を探すことが肝要ということでしょうか。だからタイトルが「線は、僕を描く」。

自然は恵みを与えると同時に、人の命もいとも簡単に奪うもの。湖山は霜介の心の傷の原因を知るわけではないのですが、現実を受け入れられず、今も時が止まったままの霜介に、自らと向き合えと。ここに原作改変の意味があるのでしょう。

311を描いたドラマ『空飛ぶ広報室』で、鷺坂元室長(柴田恭兵さん)が最終回で叫んだ言葉を思い出しました。

「あの日から、時計の針が止まってしまった人がたくさんいる!でも、それでも前に進もうとしている人達がたくさんいる!勝手な願いだが、俺はお前たちに諦めてほしくない!」

心躍るシーンあり、涙するシーンあり。yamaさんの主題歌「くびったけ」と挿入歌「Lost」もハマっていて、106分間飽きることなく楽しめました。もう少し見たいと思わせるラストでしたが、水墨画だけに「余白」を残した終わり方がふさわしいのでしょう。エンドロールも洒落ていて、おすすします。


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