アカリホノカ

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透明なビニル傘の向こうに

傘を打つ雨音を聞きながら、今日も誰かが泣いているんだろうと思う。誰かが胸の内で流した涙が、声もなく空から降り注いでいる。今日も誰かが声もなく泣いているのだ。哀しみの匂いで肺を満たすと、胸が締め付けられるようで、すこし息苦しい。 止まない雨はないから、と。顔も知らない誰かを想う。同じ空の下で、あなたの泣き声を聞いている誰かがいる。ひとりじゃないことを、覚えていて、どうか。

    • この愛が終わらぬうちに

      あなたを大切にできるわたしのままでいられるように 思い出に閉じ込めた愛はきらめく宝物のようだから いつか思い出すその日まで忘れてしまって わたしが確かにあなたを愛したことを

      • 霧の街に雨が降る

        目が離せないのは何故だろう。 きみが泣くたびに、小さな虹がかかる。七色の彩りが、世界の色を思い出させてくれる。移り変わる感情のグラデーションは、まるで空模様だ。 自分のことさえ霧に隠されて、なにがしたいかすらも分からなくて。呼吸をしても肺が冷えていくばかりで。 きみの涙が降るたびに、鮮やかな感情をまざまざと見せ付けられた気になるのだ。諦めにも似た憧れが、ぼくの顔を上げさせた。 見上げた空がどこまでも自由だったから、なんだか笑えてきてしまった。吐いた息はあたたかく、いつ

        • 書き散らし240502

          泣きたい気持ちで音のつぶてを浴びていた。 言葉が寄り添ってくれるわけじゃない。期待なんて、した方が結局苦しくなるって知っているだろう。 誰かの弱音も、やさしさも、強さも、いまの自分には当てはまらない。それでも、誰かの声や音にそばにいてほしいのだ。 あれでもない、これでもない、と。そうして試していくなかで、ようやくいまの自分のかたちが分かる気がするから。

        透明なビニル傘の向こうに

          ひとはこれを焦燥と呼ぶのだろう

          焦りばかりで何も手につかず、理想に焦がれて上を見上げるしかできない。呼吸が浅くなる。酸素を求めて口を開けど、言葉を発するには至らない。いっそ目を閉じて休むことを選択できたのなら、楽になれるのかもしれない。視線だけは、何かを求めて忙しなく動き回っている。 ああ、なんて情けないことか。 やっとの思いで伸ばした手は、空を掴まんとしている。そう、たとえ誰もが無謀だと笑おうとも。

          ひとはこれを焦燥と呼ぶのだろう

          書き散らし

          膨らんだ桜の蕾を、宝物を隠すように、雪が覆った。貴方が花咲く様子を知るのが、私だけならいいのに、と思う。雫になって落ちたのは、涙だったのかもしれない。暖かな日差しの中で、きらめく貴方を見上げていた。これから芽吹く、貴方の春。そんなささやかな幸せが、私には手の届かない遠くに思えて、巡る季節を見送った。雪は跡形もなく、溶けて消えていた。 人が最後まで記憶しているのは嗅覚で覚えた記憶らしい。あの人が書いた台本からは、――正確には、あの人の手元で印刷された紙の台本からは、微かに花の

          推し劇!「真夏の夜の夢」1日目

          join戦争になんとか打ち勝ち、参加させて頂いた1日目の公演。緊張した空気の中で始まったVR演劇……それを打ち消すかのように、劇場を次々と笑いの渦に包みこんでいくキャストの皆様の演技力!さすがです! 会場で見ていた私が感じたのは、会場の皆さんがとてもリラックスして劇を鑑賞していたこと。コメディということもあり、沢山の笑い声が聞こえて来ました。 この一文を、体現というか、本当にそういうことを経験したなぁ、というのが、とても感慨深かったです。良い観客に囲まれた、良い舞台でした

          推し劇!「真夏の夜の夢」1日目