(夢日記)クラスTシャツを燃やそう

 酷い夢を見た。
 学校で作ったクラスTシャツ、それを燃やそうってことになった。
 みんなでクラスTシャツを着てきて、グラウンドに集合。
 グラウンドにはキャンプファイヤーに使う薪が置かれてて、業務用の巨大なバーナーが用意されていた。
 巨大なバーナーは結構特殊なものだった。車のガソリンを入れるようなノズルと、オレンジ色のホースが繋がっており、ホースの先には銀メッキが施されたタンクと繋がっている。
 先生曰く、タンクの中にガスが入っており、点火すると勢いよく燃料がホースを流れ、先端のノズルから高火力の炎が吹き出す仕組みらしい。
 ためにしに燃やしてみようと、野球がスイッチに手を触れた途端、真っ赤な火柱なゴゴウと唸り声を上げて出現した。
 炎はグラウンドの地面を焦がし、その熱発は蜃気楼を生み出す。想像してた何倍も強い炎に、思わず私たちは歓声を上げた。

 さて、程なくしてクラスメイト四十二人全員が集まった。皆、懐かしのクラスTシャツを身につけている。顔立ちは揃って大人になったというのに、面影はしっかりと残っていた。誰が誰なのか、すぐに分かる。
 もう十年以上会っていないはずなのに、ちゃんと名前を覚えているものだなぁ、なんて自分に関心したりもした。
 さて、元担任の挨拶も終わり、いよいよTシャツを燃やすぞ、という雰囲気になってきた。そんな中、当時の学級委員長が提案する。

「みんな円になって、シャツを着たまま燃やそうぜ。すぐに脱げるし、裾の方だけ燃やして隣の人にバーナーを渡す。これを繰り返して全員のシャツに火がついたら、シャツを脱いで真ん中の薪に焚べる。どう?」

 私たちは彼の言葉に賛同した。思い出を身につけたまま大人になろうという彼の提案を拒否する者などいるはずがなかった。

「んじゃ、燃やしまーす!」

 全員がぐるりと円を作ってから、元バスケ部の女性がノズルに手を伸ばした。
 ――ゴウン。
 先程同様、タンクが微かに揺れた後に低い唸り声を上げて火柱が立つ。真っ赤な炎は地面に触れると、まるで大地を這うように広がっている。

「えいっ!」

 彼女はなんの躊躇いもなく、その炎を自らが身につけているシャツに向けた。

「あっつぅ!」

 そう言いながら笑う彼女のシャツは、確かに火がついている。

「はい、次の人!」
「はーい! わたしわたし!」

 隣にいた女性が、炎を吹き出したままのノズルを受け取る。手渡しの際に炎が顔面に触れ、彼女は激しくむせた。にも関わらず、大して気にもとめない様子で自らのシャツにノズルを向ける。
 火はすぐに着いた。

「次俺な!」

 彼女たちと仲良かった彼も、なんの躊躇いもなく自らのシャツに火を灯す。
 四人、五人。さて次で六人目といった頃になれば、最初に火をつけた彼女は全身が火達磨になっていた。黒くて若干嫌な匂いのする煙を吐き出しながら、炎に包まれた女性は笑い声を発して手を叩いている。

「ねねね、私にもつけて!」

 色白の美人がシャツをピンと張って微笑むと、先程火をつけたばかりの元野球部が火炎を向ける。
 灼熱は彼女の左手を焦がし、白い肌が赤黒く変色していくのが見えた。黒い斑点がポツポツと腕に見られ、鼠色の煙と同時にゴポゴポと沸騰した血液が溢れ出す。

「熱い、ねぇ熱いよぉ!」

 抗議の言葉を発する彼女も、嫌がる様子はなくむしろ楽しげですらあった。
 私は、そんな異様な光景に一歩後ずさりする。
 どうやら私だけでは無いらしい。当時一緒に演劇をやっていた友人二人も、恐怖を顔面に貼り付けていた。

「なんなの、これって――」

 彼女はそれ以上何も言えない様子だった。

 「俺、止めてみる!」

 昔私の演技を小馬鹿にしてきた彼は、ノズルを奪い返すために立ち上がった。そしてかけ出すと同時に、チューブを足に絡ませて盛大に転ぶ。その衝撃に耐えきれなかったのだろう。火を放つノズルが彼らの手から離れ、宙を舞った。周囲に灼熱を撒き散らしながら暴れ狂う火炎放射器。それを眺めながら笑い声を響かせる火達磨たち。
 ポンプの隣に座っていた担任が、ようやく何かに気づいた様子でチューブを引っこ抜いた。
 炎は即座に弱まり、火をまとったまま阿鼻叫喚を口にする男女だけがそこに居た。

「ギャァァァァァ!」
「なんで! なんで!?」
「救急車! 誰か早くッ!」
「熱い、熱いよぉ!」

 正気に戻ると同時に皆を襲うのは、火傷による激痛。そんな中、担任が叫んだ。

「お前ら逃げろォ!」

 何事かと彼の方を見れば、タンクのチューブが繋がっていたであろう場所から黒い液体が漏れだしていた。それは空気に触れると同時に気化していく。
 それがなんなのか、聞くまでもなかった。

 私はスマートフォンを操作して一一九へ電話をかける。「消防ですか、救急ですか」の問いかけに、両方だと答えた瞬間だった。
 背後で爆発音が鳴り響き、私の体も灼熱で包まれた。

 そして小生は今、目が覚めた。

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