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テックスタートアップが魚を1年で100万食販売した舞台裏

この記事は UMITRON Advent Calendar 2021 23日目 の記事です。
経営陣はじめソフトウェアエンジニア、ハードウェアエンジニア、ビジネスなどいろんな職種のメンバーが参加して記事を投稿しています!


さて、ウミトロンで人事・広報等々を担当しているあこてぃす(@akotisumitron)こと佐藤です。入社4年目に突入し、スタートアップの成長とともにこれまで本当に様々な経験をさせてもらいましたが、今回はウミトロンのテクノロジーで育った養殖魚販売のプロジェクト「うみとさち」に関するnoteを書きたいと思います。
開始1年で100万食販売を突破するなど急成長中のプロジェクトで、一見順風満帆そうに見えますが、その裏側は非常に地道で泥臭く、試行錯誤の連続でした。

うみとさち1周年&販売人数100万人突破のプレスリリースはこちら

「うみとさち」とは

AI・IoTなどウミトロンのテクノロジーを活用して育てられた、サステナブルシーフードブランドです。新鮮な「海の幸せ」を一方的に消費するだけではなく、「海とその幸せも考える」。そんな想いを込めて「うみとさち」と名付けました。

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「海獣の子供」等の作品で知られる、漫画家の五十嵐大介先生
描き下ろしのメインビジュアル

養殖の現場にメンバー自らが赴き、対話をするからこそわかる、魚を育てる匠の生産者のおいしさや安心へのこだわりを伝えること。それを技術でサポートしながら、海に餌の流出を防いだり生産者の労働負荷を軽減したりすることで、サステナブルな養殖業を実現すること。

そして消費者が海のサステナビリティを知る・考えるきっかけを作り、日常の購買行動の選択肢に、少しでもサステナブルなシーフードを増やしていくことで、豊かな海を守っていくことを目指しています。

「うみとさち」開始の背景

ウミトロンは2016年創業以来、養殖現場にIoT・AI・衛星リモートセンシング等のテクノロジー導入を行うことで、餌やりの最適化やコスト・生育改善、労働負荷の軽減などに取り組んできました。ミッションである「持続可能な水産養殖を地球に実装する」ため、養殖現場の課題に向き合い、少しでも生産者の方々に貢献できるプロダクト開発に邁進していました。

IoT・AI技術を活用したスマート餌やり機「UMITRON CELL」

ところが、2020年から起こった感染症により状況が一変します。ホテルや外食、オリンピック需要を見越して養殖していた魚が売れなくなり、魚価が急落、低迷してしまったのです。

出典元:東京都 中央卸売市場日報、市場統計情報(月)報) https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp011013999600100160/7

「早く出荷しないと餌代がかさんでしまう。今売れば赤字だが覚悟を決めて出荷しなければ」「稚魚を早く生け簀にいれて生育したいが、出荷が止まっていて空いている生け簀がない。今稚魚を入れないと逆に来年以降出荷する魚がなくなってしまう」生産者より悲痛な声や悩みを聞く日々が続きました。

生産者の方々が苦労して手塩にかけて育ててきたこだわりの魚。その価値が正当に評価されないまま売られてしまう状況をなんとか打破できないか?
これまで生産現場に技術提供をしてきたものの、持続可能な水産養殖を実現するためには、販路の確保と養殖魚の魅力を消費者側に伝えていくことも必要では?
コロナ禍のタイミングは、もしかすると、サステナビリティについて消費者に伝え、海の資源に対する考え方や消費行動を変えていき、水産に関わるステークホルダーで協力し合えるチャンスになるのでは?

五十嵐先生描き下ろし、魚の生産から消費に関わるステークホルダーのイメージ。
実は一番右のキャラクターはウミトロンTシャツを着たメンバー。

なんとか生産者の力になりたいの一心で、2020年春頃社内で立ち上がった魚販売のプロジェクトでしたが、元々ウミトロンは社員の7割がエンジニア、残り3割のビジネスメンバーも誰も水産流通の経験はなし。そもそも、魚ってどうやって売ったらいいんだっけ…からのスタートでした。

そこでまずは採用(!)を開始、水産商社バックグラウンドや小売への営業・販促経験豊富なメンバーを採用。他のプロジェクトも兼任のメンバー(私含む)も合わせて年間平均4人力のチームが立ち上がりました。

チーム全員が写ってる写真がないという反省
真剣な眼差しで魚を試食するメンバー

業界構造分析や市場調査をしつつ、実際に商談や打ち合わせを進めながら知見化、業界特有の商慣習を体感しながら一つずつ改善し前進していく、まさにアジャイル魚販売プロジェクトです。
魚を売った実績が皆無のスタートアップに、真摯に向き合い、アドバイスやサポートしてくださったステークホルダーの皆様には感謝しかありません。

ここからは、「うみとさち」100万食突破までを振り返って、印象的なエピソードについていくつか紹介していきます(正直書ききれないくらいありますが、割愛します)。

おいしさあってのサステナブルー海を守るトップシェフとのクラウドファンディング

クラウドファンディングのリターンとして提供した「うみとさち」特別コース@シンシアブルー

「うみとさち」の一番最初の消費者向け販売は、2020年11月25日から約1ヶ月半実施したクラウドファンディングでした。サステナブルなシーフードに興味を持つ消費者層や理由の検証、また「うみとさち」のファンを作るために、クラウドファンディングのプロジェクト立ち上げを決定。思い立ってからクラウドファンディング開始までのリードタイムは約2ヶ月(!)でした。

クラウドファンディングに合わせて「うみとさち」という名前やタグラインの決定、
クリエイティブ制作も同時に進行

急ピッチで企画準備をすすめる過程で、どのような打ち出しや企画であればサステナブルな魚に興味を持ってもらえるのか検討すべく、SDGsやサステナビリティに関心の高い知り合いや、すでに活動をされている団体等にチームでヒアリングをしていきました。

すると、魚の消費行動において、大前提としておいしさが重要であること、また魚を料理することに対するハードルも乗り越えなければいけないことがわかってきました。
自分が消費者の立場になって考えると至極当たり前の話なのですが、どうしても伝えたいメッセージが先走ってしまい、消費者の視点が抜け落ちてしまいがちです。おいしい魚を、おいしく食べられる料理方法で手軽に楽しんでもらえること、そうした消費体験の先に「このおいしい魚のサステナビリティ」を考えてもらうきっかけが生まれることを改めて気付かされました。

真空パックで新鮮な状態でお届けする「うみとさち」の真鯛フィレ。
家庭で料理しやすいよう皮と骨もとった加工

そこで、海を守る料理人集団「Chefs for the blue」のミシュランシェフ含むトップシェフにご協力いただき、魚の素材を生かした家庭で簡単に楽しめる特別レシピを考案、「うみとさち」の魚と一緒に消費者にリターンとして届ける共同クラウドファンディングをスタートさせました。

「うみとさち」クラウドファンディングにご協力いただいた「Chefs for the blue

ただ、クラウドファンディング期間は、コロナの影響で急に時短営業やテイクアウト対応等、感染症対策が変動するというシェフにとって大変忙しい状況下。そんな中「うみとさち」の魚を全シェフに試食いただき、魚に合う調理方法で、なおかつ家庭にある材料で平日15分、もしくは休日30分で作れるレシピを作成していただくという無理難題にも快く応えてくださいました。

(お手本)「慈華」田村シェフの「真鯛の湯引き スパイシースープ」
(作ってみた)ズボラな私でも本当に15分で作れた本格中華

クラウドファンディングはおかげで計219名の方々に140万円を超えるご支援をいただくことができました。この成功やこの過程で得た知見が、後述する量販店販売やオンラインショップ運営、広報活動などを加速させていく起爆剤となりました。

#うみとさち でSNSに投稿いただいた数々の料理写真

余談ですが、実際に支援者の方々に魚を届けるにあたり、予想数量を上回ったため加工場の人出が足りなくなり、チームメンバー自ら加工場で発送作業を手伝ったり、

深夜から早朝にかけて加工場で行った出荷作業

リターンの一環でイルカのV-tuber「うみ」と「さち」が海のサステナビリティについて伝える子供向け動画コンテンツを作ることになったのですが、連日深夜まで不慣れなV-tuberの設定とイルカのセリフの練習をしたりしたことは、今となっては良い思い出です。

イルカのV-tuber「うみ」と「さち」の「うみ」。
ちなみに「さち」の口グセは「ぴー!」

「現場」は養殖場だけじゃないー大手量販店での実証販売

クラウドファンディング達成の裏で、「うみとさち」を応援してくださる方々のご紹介やツテをたどり大手量販店と同時並行で商談を進めていました。
ただ単に「魚を売らせてください」ではなく水産資源に対する課題意識と、消費者に美味しい魚をサステナブルに提供し続けるための取り組みであることをお伝えし、ウミトロンだからこそできるユニークな販促やサステナビリティへの貢献をお伝えしていきました。

「うみとさち」チームとしてピッチイベントも多数登壇

その結果、持続可能性に配慮した水産物を中長期的に取り扱っていきたいという方向性で共感をいただいた東急ストア様、ヤオコー様、U.S.M.H様(マルエツ・カスミ・マックスバリュ関東)などの複数の大手量販店数百店舗で実証販売が実現。
初めて店頭に並んだ「うみとさち」の魚を見た時、ふと、入社して一番最初に現場に行った時「将来、ウミトロンの技術で育った魚が食べられるようになったらいいのに…」と思ったことを思い出し、売り場でしばらく感慨にふけっていました。

店舗訪問するたび、ちゃっかり自宅用にも購入

ただ、スーパーの水産コーナーに「うみとさち」が並ぶまではの道のりは、実は非常に泥臭いことの連続でした。

水産バイヤーが行っている魚の需要予測は天候やイベント(ひな祭り、土用の丑の日など)に左右され、かつコロナ禍においては特に需要予測が難しく、実は仕入の数量は数日前まで確定しないことが多いのです。多い時はなんと仕入れ予想数量から約2倍の上振れがあったことも…。

うれしい悲鳴で、急遽パートナーの加工会社の方々に無理なお願いを相談させていただいたり、商品パッケージに貼る「うみとさち」ステッカー数万枚をみんなで封入したりしました。

人手が足りないため、大学生の弟(金髪)もアルバイトとして急遽召喚

各店舗への販促物の配布が間に合わず、遠い時には水戸まで車で3時間かけてメンバーが販促物を持って行ったことも…。

また、実証販売日決定から販売当日までのリードタイムが短い場合は、各店舗に十分に「うみとさち」の販売企画内容や商品の特徴などをお伝えすることができません。メンバーで手分けして各店舗を巡回し、水産コーナーのご担当者に企画を説明させていただいたり、売り場の飾り付けやセッティングもメンバーの手で行ったことも何度もありました。

売り場でウミトロンアプリを使ったリモート餌やり体験も開催

こう書くとただ労力がかかっているように聞こえてしまうかもしれませんが、魚を売ったことのないスタートアップが0から魚を量販店の販路を開拓したことで得られた水産業界とその独特な慣習に対する知見や、各小売店舗からのフィードバック、売り子をしながら消費者を観察し時に会話することでわかる魚の購買行動におけるインサイトなど、かけがえのないアセットを会社として貯めることができた1年でした。

消費者の声が業界を動かした瞬間ー広報・PR

各マスメディア提供用にスタジオ撮影した「うみとさち」の真鯛

とある都内大手量販店の複数店舗でテスト販売をしていた時のこと。ウミトロンのAI技術で育った養殖魚をスーパーと協力して消費者に展開していく取り組みが非常にユニークということで、大手新聞社の紙面に「うみとさち」のテスト販売に関する記事を掲載いただいたことがありました。
ウミトロンとしては、電子版紙面やWebメディアにはこれまでも100以上の掲載実績があるのですが、誌面掲載は数える程しかなく、かつマスの消費者に関係のあるニュースはこれまでなかなかありませんでした。

記事掲載の翌日、量販店のバイヤーからなんと「店舗を訪れたお客様から、この店にAI養殖の魚はないのか質問をいただいた。お客様から要望をいただいた以上、販売をしたいので、至急他の店舗でも取扱いできないか」と連絡があったのです。

正直、心の中で「え?問い合わせした消費者って、きっと2-3人では…?」と思ったと同時に、お客様の声をいかに小売業界が大切にしているのか、数人の消費者の声でも業界を動かす力を秘めていることを痛感しました。

これまでUMITRON CELLなどのプロダクトを養殖業界(toB)を意識しながら広報をすることが多く、広報の力を直接的に実感することが少なかったのですが、この経験が広報の面白さを教えてくれ、今の私の広報活動の原動力になっています。

2021年6月に放送された「スッキリ」SDGs特集の事前収録で桝アナウンサーと。
これが一番の広報活動の原動力(笑)

まとめ ー絶賛、試行錯誤中!

「うみとさち」に賛同してくださった多くのパートナー企業・団体・支援者・消費者の皆様に支えられて、年間累計100万食突破というプロジェクト立ち上げ当初を大きく上回る結果となった1年でした。

しかし、「うみとさち」として目指す「生産者がこだわって育てる養殖魚の価値を消費者に伝えることができ、消費者にとってサステナブルシーフードが身近で自然な消費行動になっている」世界観に対して、手応えとしてはまだまだスタート地点。このブランディングや販売戦略をやり続けていくことが正解だとは思っていません。

「サステナブルな食品といえば?」と聞かれて第一想起がない人が多い中で、どうやったら消費者に海や魚のサステナビリティについて興味を持ってもらえるのか、そして消費行動に移してもらいやすくするにはどうしたら良いのか、どうしたら生産から消費まで水産業界全体をサステナブルにできるか、日々試行錯誤し続けています。

量販店だけでなく養殖現場にも出張し、生産者と対話

「何が正解かわからない中で立ち止まるよりは、完璧でなくても何か世の中にアウトプットしよう!」というDone is better than perfectの精神で、これからもアクションを続けていきます。
引き続き応援よろしくお願いします!

出張中の一コマ。エンジニアもビジネスも一丸になって頑張ります!

最後に宣伝ですが、「うみとさち」を食べたくなった、応援したくなった方、ぜひオンラインショップからポチッとお願いします!現在掲載しているASC認証取得の真鯛商品には、クラウドファンディングで考案いただいた特別レシピもセットになっています。
(ちなみに、このオンラインショップもチームのお手製。ノーコード時代すごい!)


ウミトロンではミッション「持続可能な水産養殖を地球に実装する」を実現するために、共に航海をしてくれる仲間を募集しています。

世界でまだ誰もなし得ていない、魚の生産現場から消費者に至るまでをデータ化することで自動化・最適化・透明化していくこと、そしておいしい魚を未来の世代まで残していくために水産業界をサステナブルにしていくことを、共に目指していきませんか?



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