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【摂食障害】私とアイスの物語
「何でもいいから食べなさい。」
そう言って差し出されたのは、無数のアイスだった。
この中から何でも好きなのを選べ、ということらしい。
日差しが当たって熱くなったテーブルの上、何種類も並べられたアイスは、どれが選ばれるかコンテストされているみたいだった。
だから、この中からひとつも食べたくないなんて、言い出せなかった。
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3年前、はっきりと診断されたわけではないが、私は拒食症に足を突っ込みかけていた。BMI17以下。体重が僅かの間に3、4kg落ちる。
初めは、食べたくないわけじゃなかった。
食欲不振で食べられず、細い身体が出来上がると、その弱い身体から「食べるエネルギー」なんてものは湧いてこなかったのだ。
痩せ細った身体を見られるのは、最初は苦痛だった。でもそれも、だんだん注目される喜びに変わっていった。明らかに「拒食症の脳」になっていった。
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「あなたの好きなものなら何でもいいの。
食べることに意味があるの。」
〝つわりで物が食べられない妊婦さん〟がかけられたら嬉しそうな言葉を、私も言われた。
正直に言うと、嬉しかった。
その人は涙目で心配そうに私を見ていた。
とても、愛おしそうに。
その人は、私がどのアイスに手を伸ばすのか注意深く見ていた。
「じゃあ、これ、いただきます。」
並べられた中で一番小さいアイスを選んだ。
この量が食べられる精一杯。
それでも、食べる姿を、その人に、見せてあげたかった。安心させてあげたかった。
「どう?美味しいでしょ?」
自分が作った料理を食べてもらったかのように、その人はニコニコしていた。
甘いもので一気にカロリー稼がないとね、なんて。
味は正直、わからなかった。でもきっと美味しいんだろうなと思う。
だってこんなにも私が食べるのを喜ぶ人がいる。美味しくなかったら嘘になる。
「きっと今一番アイスが美味しいんだと思います。」
その言葉は、本当になった。
今日、自分で望んで、あの時より高くて美味しそうなアイスを買ったけれど。
健康になってから食べたアイスは、ただの「幸せの追加」で、あのときの何もないところに注がれた幸せの味に、勝らなかった。
本当だったよ。あの時に人生で一番美味しいアイスを食べたよ。もうこれからあの幸せに勝てないから、アイスは食べないかもしれない。でもアイス以外の、たくさん栄養のあるものを食べるから。
今日が最後のアイスでも、許してね。
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