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広報の引き出しが詰まった一冊「もし幕末に広報がいたら」(著:鈴木正義)

歴史上の出来事がプレスリリースに!

私が本書を知ったのは、この記事がきっかけでした。

江戸幕府に広報担当官がいたとしたら、大政奉還という重大な事業方針の転換をどう告知したか。著者の鈴木正義氏はそんなユニークな視点で、実際にリリース文と緊急記者会見用のQ&Aを作成しています。

Q:将軍は辞職しないのか?

A:はい、辞職は考えていません。朝廷のご威光は絶大ですが、200年以上の政治運営の知識と経験を持つ徳川家の代表である将軍は朝廷を補佐する適任者と考えます。(同席のお公家様からも歓迎のコメントをいただく)

上記リンク記事より

(同席のお公家様からも歓迎のコメントをいただく)のような仕込みがリアルです笑
その後、この記事がきっかけとなり「もし幕末に広報がいたら」が書籍化されます。

答え合わせ済みの事実をどう描くか

書籍では、以下の章立てで歴史上の事件についてのプレスリリースが書かれています。


第1章 リスクマネジメント
第2章 制度改革
第3章 マーケティング
第4章 広報テクニック
第5章 リーダーシップ

例えばリスクマネジメントの章では、「本能寺の変」において多くの人が見逃している本能寺の人たちに視点を合わせます。「当寺院の火災発生について」というタイトルで、本能寺側が把握していた(であろう)出火原因や経緯、影響についての事実を述べ、周辺住民や檀家といったステークホルダーを意識した今後の対応を明示することで寺院の信用回復を図る内容となっています。
制度改革の章では先ほどの大政奉還や、生類憐みの令、廃藩置県などが取り上げられています。その後どのような経緯をたどったかわかっているだけに、どのような力点をおいて効果的に政策の理念を浸透させるかということが主題になっています。
また、マーケティングの章では、松尾芭蕉を人気YouTuberに大胆に読み替えて、旅をしながら地方自治体や地域企業を応援する「おくのほそ道チャンネル」開設のお知らせとしてみるなど、遊び心溢れるアイデアのリリースに思わずクスリとしてしまいます。
いずれの章も、すでに歴史上何が起こったかは多くの人が知っていることです。「プレスリリース」という形で読むことによって、わりと凝り固まっている歴史のイメージを視点移動させて、広報という架空の第三者が語るところに本書の面白さがあります。

ニュースなんてない、と思っている人にも

本書は広報パースンに向けて書かれているので、業務でプレスリリースを書く方には学ぶべき点がたくさんあります。前書きにも書かれていますが、実際の企業をケースにこのような本を書くのは難しいですよね。歴史を題材にしたことで読む側も肩の力が抜けて楽しく学べます。
私がさすがと思ったのは、その視点の豊かさです。リリースはどうしても「こちら側の言いたいこと」ばかりになってしまいがちなので、記者(やその先の生活者に)「興味を持ってもらう視点」を持てる自由な発想が必要です。必要な情報を届けるだけではなく、そうした発想のヒントも詰まっているなと思いました。
私の職場は幸いにしてあまり危機管理広報の役回りはないのですが、逆にこれといった大きなニュースもなく、リリース件数も年に数本・・・。ニュースなんてない、と思っていたけれど、実は何も見えてないだけなのかもしれないなあと自分の目の節穴さを反省したのでした笑

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