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「忘れがたきもの」【詩】

ぼくには
忘れがたき田舎の町がある
忘れがたき田園風景がある
忘れがたき校舎のかげには
忘れがたき花園がある

ぼくの忘れがたき人びとは
いまでもこの町の朝を昼を夜を
生きているのに
ぼくだけが風に吹かれている
知らない街の風に

嵐と光のなかで我を忘れて
知らない言葉を話す
忘れがたき言葉たちを
忘れてしまったぼくの詩を
だれが聞いてくれるだろう

忘れがたき町の
忘れがたき石清水の
おいしさよ
ぼくは忘れてしまったのか
あの忘れがたきものたちの
ささやく声を

忘れがたき時の行方に
せめて耳をすまして
忘れがたきものたちが教えてくれた
心を
とりもどして
忘れがたきあの時代の
破片が映しだす日の
はかない
瞬きを

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