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「詩の花束」【詩】

ひとりの
年老いた教師が
冬のはじめの教室で
一篇の詩を生徒たちに語りきかせた
生徒たちはみな気怠るそうに
よくとおるその声よりも
校庭のケヤキに暮らす
鳥の羽音をきいていた

季節はながれ
教師は永い旅にでた
そのあたたかな春の日の朝
白い花で埋めつくされた柩には
あの日生徒だったものたちの
涙のかわりに
詩の花束が
投げ入れられた

また季節はながれ
生徒だったものたちは
父になり 母になった
生涯の旅をするものもあった
大学をでて 詩を書くものもあった
それぞれの場所で生きる
かれらの窓辺には
それぞれの詩の蕾が
柔らかな色を内にふくんで
通りすがりのだれかにとっての
詩の花束になる日を
風に吹かれて待っていた

それは
まだ遠い
春の日のこと

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