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集中力とUIデザイン〜後編〜

はじめに

今回は、
集中状態に入るための条件、集中力を高めるにはどうしたらいいか、
そしてUIデザイナーとしてそれらをどうデザインできるのか、
考えてみたいと思います。

↓前編はこちら↓

集中状態(フロー)に入るには

「フロー」とはミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)さんが提唱した理論で、

「時を忘れるくらい、完全に集中して対象に入り込んでいる精神的な状態」[1]を指しています。

フローの条件

フローには8つの条件があります[1]。
これらの条件を全て満たす必要はないようですが、なるべく多くの条件を満たせるほど、フローに入りやすくなるようです。

  1. 明確な目標と即時のフィードバック

  2. 特定のタスクへの高度な集中

  3. スキルとチャレンジのバランス

  4. タスクに対して自分でコントロールしている感覚と主体性

  5. 反射的自意識の喪失

  6. 時間のゆがみや時間感覚の変化

  7. 行動と意識の統合

  8. 自己目的的な体験 (フロー状態に本質的なやりがいがある)

安易な報酬設計はフローの妨げになりうる
フローの条件には自己目的的な体験(内的動機)がありますが、金銭などの外的報酬設計はユーザーの主体感をなくし、内的動機の喪失につながりうります。(アンダーマイニング効果
これは、心理学者であるエドワード・L・デシのパズル実験で証明されています。

【外的動機づけが役立つ場合】
外的動機づけは、単純作業やルーティンワークに対してはモチベーションや効率向上に役立つようです。[2]

UIデザインにできること

上記のような条件をいかにデザイン上に落とし込めるかが、ユーザーをフロー状態にするポイントになります。

適度に困難な課題
何も知らない初心者でも使いやすくしつつ、スキルを高めた熟練者もやり込めるような複雑な機能やカスタマイズ性を提供することで、「スキルとチャレンジのバランス」を調整することが重要そうです。

例えばnotionなどはそのあたりの設計がうまくできてると感じます。

また、そうしたカスタマイズ性を持たせることで「タスクに対して自分でコントロールしている感覚と主体性」を与えることも可能です。

明確な目標
ユーザーが何か大きなタスクをする必要がある場合今すぐ取り掛かれる単位までチャンク化します。

また、アチーブメント機能を用意してユーザーに小さな目標を提供することもできます。

ただし、どのような報酬をつけるかには注意が必要そうです。報酬のためにサービスを使うようになってしまうと、「自己目的的な体験」でなくなってしまうからです。

SMARTな目標を立てよう
明確で達成可能な目標を設定する上では以下の要素を満たすよう意識できると良さそうです。

Specific(具体的に)
誰が読んでもわかる、明確で具体的な表現や言葉で書き表す。

Measurable(測定可能な)
目標の達成度合いが客観的にわかるよう、定量化する。

Achievable(達成可能な)
希望や願望ではなく、達成可能な現実的内容かどうかを確認する。

Related(関連した)
設定した目標がより大きな目標・目的にどれだけ関連しているか。

Time-bound(時間制約がある)
いつまでに目標を達成するか、その期限を設定する。

即座のフィードバック
何かのタスクが完了したときにフィードバックすることは当然として、タスク中のスモールタスクに対しても、即座のフィードバックができるか?が今後の課題になるかと思います。

例えば、今記事を書いているときにも、

一定の文字数を入力するごとにエフェクトが発生する、打ち込んだ文章に対して即座にAIが評価・改善提案をしてくれる、文章入力が止まってたら文章作成のためのヒントが表示される、、、

など、様々なタイミングでユーザーにフィードバックを与えることはできそうです。
ただし、過剰なフィードバックはユーザーの注意をそらし、「特定のタスクへの高度な集中」を見出してしまう可能性もあります。

このあたりはゲームのUIが非常に参考になるかと思いますので色んなゲームをやってみて参考になるものはどんどん取り入れていきたいものです。

集中力を高めるには

汎用的な集中力を高めるには瞑想しかない?

よくあるタスク実行型のトレーニングプログラムには効果がないようです。
タスク実行型のトレーニングはそのタスクをする際の集中力は高められるが、それ以外のことには応用が効かないことがわかっています。[2]

つまり、勉強や仕事の集中力を高めるには、勉強や仕事を集中してし続けるしかない、ということになります。

しかし、瞑想は汎用的な集中力を高める効果があることが研究でわかってきています。[2]

瞑想という行為は「自分の意識をどこか一点に集中させること」であり、思考や雑音など注意を逸らされては、意識を元に戻すとことの反復により、筋トレのように注意力を鍛えることができます。

今回は詳しく触れませんが、瞑想というとあぐらを組んで行うものが想像されるかと思いますが、やり方はさまざまです。このあたりは是非調べてみてください。

結局健康が一番

定期的に有酸素運動を行う実験参加者は、運動をしていない実験参加者に比べて、注意を必要とするタスクのパフォーマンスが向上したという結果が出ており、これはあらゆる年齢層にも当てはまるようです。[3]

健康体の脳は、侵入してくる不必要な情報を無視したり、デフォルト・モード・ネットワークを抑制したりする能力が高いため、長時間集中しやすいようです。

運動以外にも、食事・睡眠も意識しましょう。

UIデザインにできること

訓練する
アプリの中で、瞑想的な時間を提供することも検討しましょう。
以前、ヘッドスペースのローンチ画面では1度深呼吸をさせるような動画が流れていました。
また、Slackのハドルで一人でいるときにも、リラックスできる音楽が流れます。

健康に対する配慮をする
デジタルプロダクトはユーザーの生活習慣を見出す元凶と言っても過言ではないです。その中で、ユーザーの健康をいかに気遣えるか?は今後の課題となるでしょう。
1日の使用制限を設けたり、深夜の時間帯に作業しているユーザーに声をかけたりすることも考えられますし、
コントラストをわかりやすくしたり、ダークモードを利用するなどユーザーの目に優しいビジュアルデザインも求められそうです。

最後に

今回は、集中状態に入るための条件、集中力を高めるにはどうしたらいいか、について書きました。

前編後編を通じて集中力について考えましたが、まだまだデジタルプロダクトはユーザーの集中力をサポートするように設計できていないように感じます。

豊かな生活を送るには集中力は不可欠です。デザイナーの責任としても、よりユーザーが集中できるような環境を提供できるよう取り組んでいきたいものです。


■参考文献
[1]フロー体験入門―楽しみと創造の心理学
[2]モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
[3]最新の脳科学と心理学で高まる 集中力の科学


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