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上昇傾向続く消費者物価指数だが、鈍化要因も顕在化。入着原油価格や鶏卵価格は下落傾向に―景気の予告信号灯としての身近なデータ(2023年7月11日)―

6月東京都区部消費者物価指数(中旬速報値)の生鮮食品を除く総合の前年同月比は、電気代が上がったことなどで+3.2%と5月の+3.1%から0.1ポイント上昇率が高まり、22カ月連続の上昇になりました。今後値上げが予定される食品もあり、依然として上昇傾向が続く消費者物価指数ですが、中には鈍化要因も出てきています。


入着原油価格・前年同月比は、25カ月ぶりに4月に下落に転じ、6月まで3カ月連続下落に。

貿易統計から算出する入着原油価格(金額÷数量で算出)が4月の前年同月比が▲16.7%に、5月の前年同月比は▲16.1%と下落になりました。5月は73,504円/klと7万円台でした。前年同月比の直近ピークだった22年6月は+101.2%の上昇でした。当時の入着原油価格は9万円/kl台で、そこからは大幅に低下しました。入着原油価格・前年同月比が下落したのは21年3月の▲1.7%以来で、当時の単価は4万円/kl台でした。
6月上中旬の原粗油の単価、数量、輸入金額の前年同旬比をみると、単価は72,319円/klで前年同旬比▲22.7%程度の低下でした。数量は前年同旬比▲5.2%程度の減少、金額は前年同旬比▲26.8%程度の減少でした。7月20日に判明する6月月間の単価(入着原油価格)の前年同月比は、下落率が拡大し、3カ月連続の下落になる可能性が大きいと思われます。タイムラグを伴って電気代などにも反映されるので、23年度後半の物価安定要因となっていくことが期待されます。

卵の卸売価格下落に転じる。上昇続いたCPIの鶏卵価格に、下落に転じる兆しが。

全国消費者物価指数・鶏卵の指数(20年=100)は22年4月の102.9から23年5月の140.8まで、13カ月連続で上昇しています。前年同月比では22年7月の0.0%から23年5月の35.6%まで10カ月連続上昇してきました。
東京都区部の消費者物価指数で6月中旬速報値をみると、鶏卵の指数は22年2月の105.5から振幅を伴いつつ上昇し、23年6月では139.2になりました。直近の連続上昇は5カ月連続です。前年同月比の連続上昇は23年1月の5.1%から23年6月の33.2%まで5カ月連続です。
卵の価格が高騰した背景には、鶏のエサ代の高騰と、高病原性鳥インフルエンザが猛威をふるったことなどが挙げられます。鶏のエサとなるトウモロコシなどは大部分を輸入に頼っていますが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で作付面積が減少し、世界的に需給ひっ迫しました。輸送費高騰の影響もあります。また、高病原性鳥インフルエンザが猛威をふるった影響も大きいです。22年10⽉28⽇に国内1例⽬が確認されて以来、23年5⽉末までに全国の飼養羽数の1割超にのぼる過去最多の約1,771万⽻が殺処分の対象となりました。
しかし、ここにきて卵価格の高騰に沈静化の動きが見えてきました。JA全農たまご株式会社によれば、東京の卵Mサイズの1キロあたり卸売価格は23年4月から350円で高止まりを続けていましたが、6月の平均卸売価格は349円となり、5カ月ぶりに下落に転じました。7月(1日~11日の平均)では334円に低下しています。7月の東京都区部消費者物価指数で、鶏卵に幾分低下の動きが出ることが期待されます。
下落の要因については、卵価格はクリスマスケーキなどの冬場の需要が落ち着いた夏場に値下がりする傾向があることに加えて、高病原性鳥インフルエンザの清浄化宣言がおこなわれ、病気が発生した養鶏場での採卵も徐々に再開していることが挙げられます。
6月20日に農林水産省が「高病原性鳥インフルエンザの清浄化宣言について」を発表しました。
高病原性鳥インフルエンザは国内では4月7日に北海道千歳市の養鶏場で発生して以降、ウイルスが検出されていません。4月14日までに高病原性鳥インフルエンザの全ての防疫措置が完了したことから、国際獣疫事務局(OIE)の規定に基づき、農林水産省が高病原性鳥インフルエンザの清浄化宣言を提出していたところ、当該清浄化宣言が、5月13日を開始日として、OIEのウェブサイトに掲載された、ということです。
今季に高病原性鳥インフルエンザが発生した農場の35%に当たる28農場が、5月末までに経営を再開しました。採卵鶏では20農場が経営を再開しました。
また、エサになるトウモロコシの国際価格が、主産地の米国で農家の作付面積が想定外に拡大、干ばつが警戒されていたところに多量の降雨があったことで、供給増が予測されるとして足元で急落しています。

6月「景気ウォッチャー調査」での「価格or物価」関連DIの改善

6月「景気ウォッチャー調査」では、景況感の現状の方向性を判断する現状判断DIは53.6で、人出の増加のペースに落ち着きがみられ小売や飲食で景況感が鈍化したことなどから、5カ月ぶりに低下しました。しかし、5か月連続で景気判断の分岐点の50超です。先行き判断DIは52.8と2カ月連続で低下したものの、5か月連続で50超です。現状水準判断DIは4月の50.5、5月は50.9に続き6月は50.5と3カ月連続で景気判断の分岐点の50超となりました。13年9月~14年3月の7カ月連続50超以来9年3カ月ぶりのことで、景気の底堅さを示唆していると思われます。調査結果に示された景気ウォッチャーの内閣府の見方と同様に「景況感の改善テンポに一服感がみられるものの、緩やかな回復が続く」と予測します。
なお、内閣府の見方で昨年7月調査から前回5月調査まで入っていた「価格上昇の影響等を懸念しつつも」という文言が今回6月調査で削除されたことは注目に値します。価格上昇の景況感に及ぼす影響が小さくなったことを示唆する動きでしょう。
「価格or物価」関連DI を作成してみると、1月調査で30台と景況判断の悪材料だったものが、6月調査では現状判断DIは49.9と、ほぼ景気判断の分岐点の50の水準まで改善しました。先行き判断DIも46.5と40台後半です。「価格or物価」要因が景況判断の主要な悪材料ではなくなってきたことを示しています。

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。