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空き家所有者を探すようになったきっかけは?~後編

前回は、所有者不明空き家の調査のために、士業仲間たちとNPO法人を立ち上げた経緯を書きました。

今回は、なぜNPOにしたのか、そしてどのように協力の輪が広がったのかを書きたいと思います。



NPO法人でないと活動できない?

「これでいける」と踏んだ矢先、1つの壁にぶち当たりました。それは、この集団の団体化です。これが1つのチームとして運営されていることを世間に認知してもらうほうが活動しやすいため、これはどうしても必要なことでした。

例えば、この集団で株式会社を立ち上げたとします。すると、赤字でも法人税が課税されますし、給料の支払いがない会社はありませんので、どうしても利潤を追及せざるを得なくなります。そうなると、一定のノルマのようのものを意識するようになります。

また、メンバーそれぞれが本業を持っていますので、それを相当程度削ってまで、こちらに注力してもらうこともできません。また、空き家に悩んでいる方からの相談や調査でお金を取る発想はもともとなかったので、ここからの儲けを当てにしてもらうこともできません。

そこで考えたのがNPO法人です。NPOは、スタッフ(正会員)に給料を払うこともできますが、無報酬でも運営できます。また収益事業を行なっていなければ法人税は課税されませんし、市県民税については、赤字の場合は地方自治体が減免措置を取ってくれます。

参画してくれた行政書士が、幸いにもNPO法人の設立に詳しく、「このスタイルなら、皆が生業とバランスを取りつつ、本業で培ったスキルを活かして運営できる」と後押ししてくれました。その一言に励まされ、無事2013年秋に設立の運びとなりました。

地方自治体との協力がカギ

まずはわたしの事務所のある船橋で、具体的な実態調査を行うことにしました。空き家で悩んでいる方が相談に行く市役所の担当課を教えてもらい、訪問してみました。そこは「市民安全推進課防犯係」というところでした。そこで、どんな相談例があるかを聞かせてもらえればと思いました。

幸いなことに、いろいろな問題をお聞きできました。まだ空き家特措法が施行される前でしたから、このような団体が来るのが珍しかったこともあったようです。市役所の方も、少ないメンバーで本当に熱心に取り組んでおられました。しかし、お役所にも難問があることが分かりました。それは、お金と専門性の問題でした。

大抵の場合、空き家所有者は、「売却したら、あるいは解体したらいくらかかるのか」というのを知りたがります。その目安が分かれば、その後の行動の計画が立てやすいからです。しかし、自治体である以上、具体的な金額を言う訳にもいかず、せいぜい信頼できる業者の団体を紹介するくらいしかできなかったようです。

また、境界や再建築不可の問題などは、担当課が異なりますから、すぐには回答できません。ましてや、相続問題や訴訟となりますと、市役所の方でもほとんど素人といっても過言ではありませんでした。

それを、法律のプロとはいえ民間団体がサポートする、それも相談は無料でできます、ということでお訪ねしたものですから、担当者の方々が興味を持ってくださったのも至極当然の成り行きだったようです。何回かの打ち合わせを経た後、2014年1月から2016年3月まで、「市民協働モデル事業」として、空き家問題解決のコーディネートをさせていただくことになりました。

振り返ってみて

この提携期間中に、空き家に悩んでいる多くの方々の相談を受けました。ほとんどの方が言われていたのが、「不動産屋に行ったんだけど、断られてね」という言葉でした。そのセリフを聞くたびに、逆に闘志が湧いてきました。実際に解決まで物事が進み、空き家所有者や空き家の近所の方々から感謝される度に、この団体を立ち上げて良かったと感じています。

船橋市との提携は終了しましたが、その後も、ホームページを見たという相談者からの依頼を受け、活動を続けています。また、おかげさまで、2016年には埼玉県に、2017年には茨城県に、2018年には東京都と神奈川県と大阪府に、2020年には群馬県に、2021年には奈良県に、2022年には沖縄県に支部を設立することができました。どちらも、船橋で成功した「地方自治体との協力」というスタイルから、空き家問題解決へとサポートさせていただいています。

振り返ってみると、あくまでもわたしたちの場合ですが、以下の要素が奏功したようです。
①メンバー一人一人が生業を持っているので、あえて利潤を追求しなくてもよい。(正式な業務として依頼されるまでは手弁当で活動しています)
②不動産業者ではないので、あせらずゆっくりと考えることができ、いろいろなお悩みに対応しやすい。(庭の草刈りなどもやっています)
③法律のプロがいるため、空き家所有者だけでなく、空き家に迷惑している近所の人や町会の相談にも対応できる。(町会様から、役員会で空き家問題対策について話をするよう依頼されたことがあります)
④想定しうる大抵の問題について、自分たちのグループ内で回答を導き出すことができる。(市役所から、レアケースの対応について相談されることがあります)

これからも、立ち上げ当初に仲間たちと話した、「街から空き家を1軒でもなくしたいね」という素直な気持ち基づいた理念にそって、自分たちのスキルを通じた社会貢献ができたらと考えています。

次回からは、いよいよ所有者調査のノウハウを少しずつお知らせしたいと思います。
とは言っても、無駄足にならないために、まずは無料で一般に公表されている情報を活用する、という手段からご紹介させてください。