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【僕たち】(短いお話)


 
 ときどき、パパをママは連れていく。いつも僕たちのお休み係はパパなのに。小さく微笑んで、ひらりとしたネグリジェをひるがえし「ちょっとパパと仲良くしてくるわ」と言って、明るい廊下へパパの手を引いて出ていってしまう。パパは少し首を曲げながら、くすりとわらっていて、きっとママとパパは二人でないとできない仲良しの仕方があるのだろうと思う。
 うとうととしている頃、僕たちの隣にパパは帰ってくる。パパは僕たちが目を覚ましたことなんて気づかなくて、それでも嬉しそうに僕のお腹を叩いていたりする。その瞳は、開けたままのカーテンを通り越した時間を見ているようで、パパが未だパパではない頃の顔をしているようなきがする。
 ママは、実はバンパイアなんじゃないか、と思ったことがある。
 それは戻ってきたパパの首に、赤い痕が付いていたから。だけどママはお昼に買い物も行くし、鏡の前で長く自分とお話しながらお化粧をしていたりする。その鏡にはくっきりとママのうつくしい顔が映っているのだから、きっとその血は薄いのじゃないだろうかと思う。だからこうして、ときどき、パパに血を貰っているのじゃないかしら。そうだとしたら、僕はバンパイアの血を引いているのかも。
それが気になって仕方なくなって、僕たちの友情のためにも、そっと僕は自分の口の中に指を入れて、鋭い歯が生えてきてはいないかを確認した。今は未だ、その様子はなくて、僕はほっとして眠りに就いた。
 
 ある時は、ママはオオカミ人間の生き残りなのじゃないかと思うことがある。
 パパが心配そうに月を見ながら、
「ママは具合が悪いから、今日はママのそばで眠ってもいいかなぁ」
と僕に聞いてくることがある。もちろん僕は「大丈夫だよ」と返事をして、パパの顔を少しでも晴らしてあげた。「ありがとう」というパパの声は、少し男らしくて、僕は好きだ。
 一度だけ、本当にママが心配でママとパパの寝室のドアの前に座り込んで少し覗いてみたことがあった。その時の恐ろしいことと言ったら。いつものママの声ではなかった。呻く獣のような声は、布団を噛むようにして抑え込まれ、体を丸まらせたママは髪を振り乱してベッドの真ん中に横になっていた。パパはそのそばで、やさしく手当をするようにママの体を撫でていた。ときどきは汗をタオルで拭いてやり、キスをその口にするのだった。
 あれはママがオオカミ人間に変身するのを必死に耐えているのかもしれない。
 僕はそっと、だけど急いでベッドに戻り、神様に友人と共に祈った。
「どうか神さま、ママがオオカミ人間の血に負けませんように。パパをオオカミ人間にしませんように」
 そして僕たちも。
 僕は握りしめた両手を開き、生まれてからずっと一緒の友人のテディをやさしく抱きしめた。
「大丈夫だよ。もしもママがバンパイアでも、
オオカミ人間でも、パパまでその仲間になっていたって、神様は僕たちだけはお守りくださるよ」
と囁いた。僕の最愛の友人は、僕の胸の中で小さく頷くのだった。

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