剥がれたメッキ

剥がれたメッキ

私は名門企業のエリート社員、周囲からは一目置かれる存在だった。いつも完璧なスーツを着こなし、会議での発言は鋭く的確。上司からの信頼も厚く、同僚たちからは尊敬の眼差しを向けられていた。しかし、それは私が表向きに見せていた顔に過ぎなかった。

私の名前はタカシ。実際の私はプレッシャーに弱く、自信を持てない人間だった。仕事ができると評価されることが何よりも重要で、そのためにはどんな手段も厭わなかった。部下のアイデアを自分のものとして発表し、他人のミスを自分の手柄に変え、そして時には情報を操作することさえした。

そんなある日、プロジェクトの重要な会議が開かれた。私は部下たちのアイデアを集め、それを自分のものとして発表する準備を整えていた。しかし、会議が始まる直前、私の秘密が暴露された。部下の一人が私のやり方に耐えかね、上司に全てを報告したのだ。

「タカシさん、これはどういうことですか?」上司の厳しい声が響き渡った。

私は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。頭の中が真っ白になり、口を開くことすらできなかった。

「あなたのやり方が暴露されました。部下のアイデアを盗み、自分の手柄にしていたことが明らかになったのです。」

部屋は静まり返り、全員の視線が私に向けられた。尊敬の眼差しは一瞬で軽蔑に変わり、私はその場に立ち尽くした。

その日を境に、私の人生は一変した。上司からは信頼を失い、同僚たちからは冷たい視線を浴びせられるようになった。仕事の評価は急落し、ついには降格が決定された。かつては上の立場にいた私は、今や一番下の立場で働くことになった。

しかし、最も辛かったのは、自分がなぜこんなに苦しむのか、その本質を理解できなかったことだ。なぜ私はこんなにも自信を持てず、他人の力を借りなければならなかったのか。心の中の空虚さを埋めるために、なぜこんなに必死になったのか。

日々が過ぎる中で、私は自己嫌悪と後悔に苛まれた。仕事に対する情熱も失い、毎日がただ過ぎていくだけの時間となった。周囲の人々が私を見る目は変わらず、私は孤独と絶望の中で生きていた。

ある日、私は思い切って心理カウンセラーのもとを訪れた。そこで初めて、自分自身と向き合う機会を得た。幼少期のトラウマや、過去の失敗経験が私をこんな人間にしたことを理解した。自信を持てない自分を隠すために、私はメッキを張り巡らせていたのだ。

カウンセリングを受けることで、少しずつ自分を取り戻し始めた。完璧である必要はないこと、自分の弱さを認めることが大切だと気づいた。しかし、それでも過去の行いを後悔しない日はなかった。

メッキが剥がれ、本当の自分が露わになったことで、私はようやく自己と向き合うことができた。しかし、その過程は苦しみに満ち、私はまだその苦しみから完全には解放されていない。

この先、私がどれほど立ち直れるかは分からない。しかし、一つだけ確かなことがある。私はもう二度と、自分を偽ることはしないと誓ったのだ。それが私にとっての唯一の救いであり、新たな始まりなのだから。

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