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140字小説 No.771‐775

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【No.771 ごめんね】
「ごめんね」が彼女の口癖だった。石鹸を買い忘れたときも、角砂糖の数を間違えたときも、花を枯らしてしまったときも。おずおずと誤魔化すように笑う仕草が嫌いだった。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ある日、彼女から別れ話を切り出される。「ごめんね」と、真剣な顔で僕を見つめていた。

【No.772 拠所】
読んだ絵本の名前は忘れてしまったけど、布団に丸まって私と兄は絵本を眺めていた。大人になった今でも、私達は布団の中で絵本を読み合っている。一つの幸せを得る代わりに、非常に多くの当たり前を失ってきた。『けれどもほんとうのさいわいは一体なんだろう』幼いころに読んだ本の文章だ。

【No.773 讃美歌】
酸欠のように歌う彼女が好きだった。普段は高らかな声だけど、カラオケの採点機能を使うときだけは口を小さめに開く。音程が歯並びみたいに思えて、どうしても気にしてしまうらしい。愛おしくて見つめていると、不機嫌になった彼女が腕を噛む。優しい痛みと共に、歪んだ愛が跡になっていた。

【No.774 ニライカナイ】
『ニライカナイ』と呼ばれる行事があった。便箋に将来の夢や亡くなった人へ思いを綴り、メッセージボトルに詰めては東の海の彼方に流す。「願い叶い」や「未来適い」が転じたのが由来だと考えられている。夜の帳に浮かんだメッセージボトルが、今を生きている人達を照らすように光を放った。

【No.775 位置について】
「位置について」と誰かに言われる度に、人生の分岐点に立たされた感覚になった。嘘を吐いて、仕事に就いて、終の住処に着いて。ようやく自分の意思で舞台に上がった気がする。遥か遠くの閃光が、スタートなのか、ゴールなのか。確かめるために自分で合図を出した。位置について、よーい──

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652