140字小説 No.201‐250
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【No.201 人魚の恋(百景 51番)】
憧れの人と話をするために、魔女にお願いして人魚から人にしてもらった。このことを誰かに話したら私の身が内側から灼き尽くされるそうだ。でも、なんともおかしな話だろう。誰にも話していないはずなのに、声が出なくなって、足がなくなったように動かなくなって、体の内側が熱を持つのだ
【No.202 光、再考①(百景 52番)】
夜勤が終わって家に帰る。歓楽街で働き始めた彼女とは入れ替わりになってしまうのが心苦しかった。仕事に行く彼女を見送る。きっと、知らない誰かとお酒を飲んで。知らない誰かに笑顔を見せて。知らない誰かに抱かれて。僕達の関係は影のように、朝にはうっすらと消えてしまうのかもしれない
【No.203 光、再考②(百景 53番)】
歓楽街でバイトを始めてからは、同棲している彼と会う時間が少なくなった。朝、帰宅してきた彼と入れ替わりでバイトへ向かう。知らない誰かとお酒を飲んで。知らない誰かに笑顔を見せて。知らない誰かに抱かれて。「未来は明るいよ」という彼の言葉を思い出す。今、私は日陰の中にいるだけだ
【No.204 言葉の消える朝(百景 54番)】
この世界では今や、思いを言葉に、言葉を声にした瞬間、記憶から言葉の意味が抜け落ちてしまう。愛の告白も、再会の一言も、別れの挨拶も交わすことは叶わなかった。それでも、君は私に「好きだ」と言ってくれた。きっと、君の、気持ち、キラキラ、消えちゃうのに。私も言葉にして、伝えた
【No.205 セピア・レコード(百景 55番)】
古いレコードを見つけた。再生してみると鈴を転がすように歌う女性の声が流れてくる。その人のことなんて知らないのに、ただ、歌声を繰り返し聞いていた。いつのまにかレコードはすり切れて、声は滝のようにジジ、ジジ、と雑音が混じる。繰り返し。繰り返し聞いて、本当の声を忘れてしまった
【No.206 乾涸らびた花ひとつ(百景 56番)】
砂漠で今にも枯れそうだった私に、あなたは水を与えてくれました。乾涸らびて、腐食して、朽ちてしまったあなたの姿がとても美しく思えました。やがて私は民から『砂漠の女神』と崇め称えられます。民は素晴らしい服装で着飾っているはずなのに、なぜか、あなたよりも見窄らしく感じました
【No.207 月の帳(百景 57番)】
数年ぶりに故郷へ訪れると、遠くに女性の姿を捉える。髪はボサボサで目にはクマ。手は震えていて全体的に痩せ細っていた。「あ」と声を出すと、私に気づいた女性が驚いた顔で逃げ去っていく。小学生のとき、クラスで一番明るかった子だ。人違いだったのかなと、雲に隠れた月が辺りを暗くした
【No.208 風の落し物(百景 58番)】
子どものころ、おもちゃの指輪を入れた箱を裏山に埋めた。男の子の「二十歳になったら一緒に掘り返そう」という言葉を思い出す。風のそよそよという音が「そんな約束を覚えてるのは君だけだろ」と聞こえてしまう。そうよ。私はあれからずっと覚えていたのに、忘れたのはあなたの方じゃない
【No.209 流蝶群(百景 59番)】
今夜は流蝶群のようだ。月からそっと光の残滓がこぼれて、やがて一匹の蝶へと変容する。いくつもの蝶が流れ星のように、群れを成す光景はとても鮮やかだった。ベランダで流蝶群を待っていると、彼から「行けたら行く」とメールが届く。その言葉を信じて、私は沈んでいく月を一人で眺めていた
【No.210 夢路(百景 60番)】
小説家になりたい。母の反対を押し切って、家を飛び出した僕の元に母から手紙が届いた。あれから数年、すぐに帰れると思っていた故郷は金銭的にも精神的にも遠くて、どうしてもその手紙を読むことができなかった。何かあったのかと思うと、僕は母を言い訳にして夢を諦めてしまうかもしれない
【No.211 桜の雨(百景 61番)】
傘を開くと桜の花びらが舞い落ちた。中学生のとき、修学旅行で同級生と見た桜を思い出す。ふたりで花びらをかけ合って、女の子の笑顔がとても美しく咲き誇っていた。高校生になって、いや、私が告白してから会うことはなくなってしまった。「同性を好きになるなんておかしいよ」と泣いていた
【No.212 亡日(百景 62番)】
孫を名乗る男性から電話がかかってくる。もうとっくに亡くなっているはずなのに、その声が孫にそっくりで思わず涙を流してしまう。男性はうろたえて「会って話を聞こうか?」と心配してくれる。でも、もしもあなたと会ってしまったら、孫はもうこの世にいないと思い知らされてしまうでしょう
【No.213 roots(百景 63番)】
好きな人の好きなものは無条件で好きになりたいけど、好きな人の嫌いなものを、好きな人の嫌いなものだからという理由だけで嫌いになりたくない。逆に、嫌いな人の好きなものも嫌いにはなりたくないし、嫌いな人の嫌いなものも好きになりたくない。なんて、SNSに呟くことしかできなかった
【No.214 造花(百景 64番)】
小説家を目指して先の見えない暗闇を歩く。誰かを蹴落としてでも、誰かに恨まれても。自分が有名になれるのならそれで良かった。不幸を売って、付き合いを犠牲にして、プライドも殺してやがて人気が上がってきた。不安で濁っていた霧が晴れて辺りを見回すと、何人もの「僕」が横たわっていた
【No.215 橙から群青(百景 65番)】
絵羽模様の和服を纏った彼女が砂浜で横たわっていた。「私はもう汚れてしまったの」と目を伏せる。波が彼女の茶色い髪を濡らすと、髪の至る部分の色が抜けて変色していた。夕陽が海に融けていって空が橙から群青に移りゆく。彼女も、空の色も、心さえも。病葉のように本来の色を失っていった
【No.216 黙樹(百景 66番)】
妻が植物状態になってから数年が経つ。わずかでも感情を呼び起こせるようにと、小学生時代に演じた花咲じいさんのビデオを見せる。同級生は誰も覚えてない遠い昔の思い出だ。「枯れ木に花を咲かしましょう」と心の中で呟く。元の状態に戻るまで、僕は一体どれだけの涙を流せばいいのだろうか
【No.217 unravel(百景 67番)】
夢のレンタルショップを訪れる。お店で夢を借りれば誰でも等しく夢を見ることができる時代だ。私は「誰かと一緒にいたい」という夢を手に取る。昔は当たり前だった現実が、今では常に貸出中の夢になってしまった。誰かと会って話がしたい。そう思うこと自体はきっと、悪いことじゃないはずだ
【No.218 造光(百景 68番)】
地球温暖化が進んで世界は防熱壁に包まれた。空では人工の太陽と月が浮かぶ。本物の光を失ってから何十年が経っただろう。今の子ども達は教科書でしかその存在を知ることはなくなった。業火に灼かれて死ぬとわかっていても、いつか壁の外に出て、もう一度夜更けの美しい月を眺めたいのだ
【No.219 花筏(百景 69番)】
五歳になる娘に対して感情的に叱ってしまい、私自身のふがいなさで布団に塞ぎ込む。ふと目を覚ますと娘が折り紙を折っていた。私に気付いた娘は「ごめんね、ごめんね」と謝りながら色とりどりの花を私の側に並べる。思わず涙が溢れて花の折り紙の上に落ちると、鮮やかな染みが広がっていった
【No.220 和音(百景 70番)】
両親との折り合いが付かなくなって、なかば家出のように一人暮らしを始める。二十歳そこらの小娘が学費と生活費を稼ぎながら生きるのは難しい。大学の帰り、電車の中で転がる空き缶を拾う。開いた扉が入口だったか出口だったか思い出せずに、秋の影を背中に受ける。どこかでひぐらしが鳴いた
【No.221 記憶の門限(百景 71番)】
十七時を過ぎてから高校の門をくぐると、不思議な事に三十年前の街へと変化する。私が生まれる前の街を散歩するのはとても楽しい。今はもう閉店してしまった駄菓子屋。私と同い年くらいになった両親。これから私の家が建つであろう田んぼの前でぼぅっとしていると、秋風が私の頬をくすぐった
【No.222 海辺の彼女②(百景 72番)】
大学の演劇サークルで夏合宿に訪れる。みんなが海で遊んでいる間、泳げない私は砂の城を作ることに勤しんでいた。男の子が「泳がないの?」と聞いてくるのを無視すると、すぐに違う女の子と楽しそうに笑い合う。そのとき、横殴りの強い風が吹いて砂が目に入った。涙が流れたのは、きっと――
【No.223 雀の涙(百景 73番)】
電柱の上から雀の鳴き声が聞こえてきた。目覚めの悪い僕を叱るように決まった時間に起こしてくれる。目が合うと雀は首を傾げたあとにどこかへ飛び立つ。それから数ヶ月、景観美化のために電柱は地面の底に埋め込まれた。今でもどこかで雀の鳴き声が聞こえるけど、その姿を見ることはなかった
【No.224 祈る手(百景 74番)】
口も聞いてくれない。頭も撫でてくれない。目も合わせてくれない。昔は温かくて優しかったあなたがこんなにも冷たくなってしまった。あなたの心を取り戻したいと御百度参りをしても、体は冷たくなるばかりだった。病床に伏して動かなくなってしまったあなたの冷たい手を、もう一度強く握った
【No.225 格子園(百景 75番)】
高校最後の夏が終わる。野球部がグラウンドに集められて監督が土下座した。監督は「必ずお前達を大会に連れて行くと約束したのにな」と涙を流す。監督のせいではない。誰のせいでもない。じゃあ一体、何を恨めばいいんだ。ふいに問いかけられる球を、誰も打ち返すことができなかった
【No.226 海底都市(百景 76番)】
三年に一度、この国は海の底に沈んでしまうほどの満ち潮に見舞われる。1人に1台が当たり前になった舟で国の上を渡る。海が引くまでの十日間は隣の国に避難するのだ。あなたに会えなくなるわずか十日間が苦しかった。遠くの海を眺めると、まっしろな雲に包まれた隣の国が姿を現した
【No.227 不要不急の恋③(百景 77番)】
不要不急の恋が解除されてから一週間が経った。街には前と同じく恋人同士が溢れている。けれど、その幸せの裏にどれだけの恋が失われていったのだろう。私と彼の間にも透明な幕が下りて、日常の、人生の流れが変わってしまった。それでも、いつか、きっともう一度、彼と再会できる日を信じた
【No.228 祈りの鐘(百景 78番)】
灯台守の元に一羽の千鳥がやって来る。足に括り付けられた文書には名前が書かれていた。灯台守が鐘を三度鳴らして黙祷を捧げると、島民も手を合わせる。この島の風習として亡くなった人を島全体で偲ぶのだ。五十年以上も鐘を鳴らしてきた灯台守は、その日、息子の死を知って静かに泣いていた
【No.229 ネクライトーキー(百景 79番)】
文化祭の演し物で僕のクラスは創作ダンスをすることになった。誰も主役をやりたくない中、根暗で、内気で、前髪が伸びきって表情がわからない女の子が手を上げた。みんなからは馬鹿にされていたけど、放課後、一人でかろやかに踊る女の子の前髪の間から、澄みきった瞳が覗く瞬間が好きだった
【No.230 揺れる(百景 80番)】
大雨に降られて髪をぐちゃぐちゃにしたまま帰ると、美容師である彼が髪を整えてくれた。ふと「私の髪が綺麗じゃなくなったら別れる?」なんて聞くと彼は俯く。心が乱れた。彼の気持ちがこのまま変わらないのは難しいだろう。彼は返事の代わりに、病気で抜け落ちつつある私の髪を優しく撫でた
【No.231 卯月(百景 81番)】
小学生の時、命の授業としてウサギのラビ太を飼っていた。喉元を撫でると「プゥ、プゥ」と鳴き声を漏らす。いつだったか、ラビ太は近所の中学生に殺されてしまった。大人になった今、夜道を歩く。どこからか鳴き声が聞こえた気がして振り向くと、空にはウサギの模様が映った月が浮かんでいた
【No.232 少女終末(百景 82番)】
終末戦争が終わってから私は、地下図書館に閉じ込められたままだ。あの日から1000年は経っただろうか。私を造った博士はもう戻ってくることはないだろう。破損した左腕からは配線ケーブルが覗いて、胸部ハッチからは心臓の形をした動力炉が錆びる。瞳からは涙に似せた『何か』が流れた
【No.233 夜鹿(百景 83番)】
人生に疲れてしまって神隠しの山に訪れる。木には多くのロープが括ってあった。僕は遺書を置いて滝から飛び降りると、遠くで鹿の哀しい鳴き声が聞こえてきた――/滝から男が流れてくる。人間に荒らされた山では食物がなくなった。今日も不味い人肉を食べるしかないのかと哀しい声を上げる
【No.234 サナトリウムの火花(百景 84番)】
サナトリウムの窓から海を眺める。夏になれば遠くで花火が見えるらしい。夏になれば。先生の話では私の寿命はあと3ヵ月ほどだそうだ。写真に映る恋人と目が合う。病気のことを言い出せなくて私から別れを切り出してしまった。桜が散る。あと3ヵ月だ。夏になれば。夏になれば。夏になれば――
【No.235 夜を患う(百景 85番)】
目の見えない私は、不思議なことに彼女と手を繋ぐ間だけ視力を取り戻すことができる。ある日、友人と遊んでくると言ったまま連絡のない彼女を待って、私は明けない夜をひとりで過ごした。繋ぐ手の先が見つからないまま、空中で左手がさまよう。見せかけの光に、目が眩んでは冷たい夜を患った
【No.236 月の破片(百景 86番)】
「当たって砕けろ」の精神で挑んだ結果、私は見事に振られてしまった。橋の手すりに体を預けていると、波に映った月が揺れて光の残滓が広がる。その様子がまるで破片に見えた。私と同じように月も誰かに当たって砕けたのだろうか。ふいに涙が落ちては波紋が広がる。瞳に欠けた月が映り込んだ
【No.237 季節の変わり雨(百景 87番)】
季節の変わり雨が降ってくる。夕陽を溶かしながら落ちる黄金色の雨は、山や花々、風や人や命さえも濡らして、また別の季節に塗り替えていく。山は紅葉が色づいて風には生ぬるい温度が纏う。夏の対する憧れを消費できないまま、季節の変わり雨は季節を、心を、感傷を。強制的に次へと進ませた
【No.238 ミオ(百景 88番)】
雨風を凌げる場所もなく、頼れる人もいない。寒さで震える私をあなたは家に泊めてくれた。ご飯を食べさせてくれて、毛布を与えてくれて、何度も頭を撫でてくれる。一夜が明けてあなたと別れた後、私は遠い街に住処を見つけた。もう二度と会えないあなたに向けて、私は「にー、にー」と鳴いた
【No.239 もうひとつの命(百景 89番)】
魔女にお願いして寿命を伸ばしてもらう。代償として私は恋を封印された。誰かを想うたびに、心臓が高鳴るたびに、刻一刻と死へ近付いていく。恋を失ってまで得たいと思った命だけど、あなたのためなら捧げても構わなかった。絶えるなら絶えてもいいと想いを告げる。息が止まる。呪いが消えた
【No.240 リペイント(百景 90番)】
鏡を見ると瞳が青色に染まっていた。どうやら感情によって瞳の色が変わるらしい。悲しいときは青色。悔しいときは緑色。嬉しいときは黄色。ある日、彼の浮気を知って泣き腫らしていると、瞳から赤い涙が溢れてきた。悲しいとも、悔しいとも、怒りとも違うこの感情は、一体なんだと言うのか
【No. 241 永久凍土(百景 91番)】
降り止まない雪を静めるために、私と妹は山の上に住む魔女の生け贄に捧げられることとなった。病弱だった妹は頂上へと着く前に倒れてしまう。身を清めたあとに、纏った着物が雪に降り積もっていく。村の人達のことなんてどうでも良かった。私は着物の上に寝転がって、妹の寝顔を静かに眺めた
【No. 242 五十二ヘルツの鯨(百景 92番)】
いつからだろう。私の瞳の中には海が生まれていた。目をつむるとザザン、ザザンと波の音が聞こえて、頭のどこかでは姿の見えない鯨が鳴いた。眼球は常に下向きで青白さが滲む。五十二ヘルツの鯨と同じだ。誰にも気付かれず、誰からも見つけてもらえないまま、私は、涙の代わりに海水が流れた
【No. 243 アンデライト(百景 93番)】
仕事をサボって喫茶店で人混みを眺める。今日も至って平和だ。これから先、何もかも変わらないでほしい。星も、人種も、性別も、死も、言語も、病気も。何にもなかった時代もそれなりに楽しかったけど、人間の姿になった現代を過ごすのも悪くない。最高だった。死ぬにはとても良い日だった
【No. 244 別れのあとの静かな午後(百景 94番)】
子どもの頃、布団が叩かれる音を子守歌にして眠っていた。寝る前は座布団に座っていたはずなのに、起きるといつもふかふかな布団の上に寝転がっている。母がこっそりと布団に移動させてくれたのだろう。と、娘を寝かしつけていると思い出す。窓からはやわらかな風と布団を叩く音が吹き込んだ
【No. 245 レゾンデートル(百景 95番)】
何人も犠牲にしてアイドルになった私は、罪滅ぼしに死期が近い人へ影を分け与える。私の存在は少しずつ失われて、影を与えられた人は生気を取り戻していく。見窄らしい見た目になった私が一世風靡したアイドルなんて、今では誰も思わないだろう。女の子の影が濃くなり、私の手を取って笑った
【No.246 夜が凪ぐ(百景 96番)】
華々しい舞台生活だった。けれど、歓声とおひねりが飛び交う夢のようなひとときは夢のように終わってしまう。夫の不倫。ネットの誹謗中傷。ある日、通行人が面白がって私に小石を投げた。数十年経った今、私のことを覚えている人は誰もいない。舞台には私と似た若い女性が瑞々しく立っていた
【No.247 海に溶ける(百景 97番)】
夕陽が溶け出して雨のように海へと流れていく。橙色に染まる海に足を入れると、つま先から足首にかけて皮膚の色も橙色に染まる。海の中を泳ぐと感傷的な気持ちが体を浸食していく。薄情なあなたの元へと駆けていかないように、声を出して泣かないように、このまま人魚になって沈みたかった
【No.248 星見海岸(百景 98番)】
秋も深まる頃、海岸にメッセージボトルが流れ着く。夏休みの終わりに高校で催される『光流し』という行事だ。将来の夢や願い事を書いた紙を空き瓶に詰めて海に流す。私も昔は「好きな人と付き合いたい」と願ったことを思い出す。中に入っている色とりどりのビー玉がいくつもの音を生み出した
【No.249 言の葉の波(百景 99番)】
書き下ろし小説の執筆がてら過去作のレビューを確認してみる。「ネタバレまとめで見たけど楽しかったです」「ネットで全文載ってたので読みました」という感想で溢れる。言葉だけで好きと言っても、買わなければ僕に一銭も入らないのだ。昔は書きたいものがあった。今じゃゴミみたいな思いだ
【No.250 形骸花(百景 100番)】
禁止区域である地下図書館に忍び込む。1000年前、この世界では終末戦争が起こって言葉が失われてしまった。奥に進むと本棚の隅でアンドロイドの少女が横たわる。機械の体には草や蔦が巻き付いて、目からは淡青色の紫陽花が咲いていた。言葉にできない感情が私を揺り動かす。祈る。祈った
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