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140字小説 No.876‐880
【No.876 北へ】
どんなに未来が暗くても、勝手に昇る朝日は明るい。俯きながら仕事に向かう途中、日射しが眩しくて右手を顔にかざす。交番の警察官が敬礼と思ったのか答礼で応える。「行ってらっしゃい!」勘違いのコミュニケーションだ。それでも、背中を押された気持ちになった。前を向く。足取りは軽い。
【No.877 夕縁】
夕陽から抽出したコーヒーを口に含むと感傷が広がる。黄昏時に開店して、月明かりが灯る前に姿を消す喫茶店だ。彼の夢を嗤ったこと。お年寄りの鈍臭さを憎んだこと。涙を飲むことでしか癒せなかった渇きを満たしてくれる。生きる糧とするために。未練や、後悔すらも、カップに注いで溶かす。
【No.878 夏あめく】
綺麗な小説を、綺麗な映画を、綺麗な音楽を、ふれたあとに彼女のことを思い返す。どれだけ美しい記憶を纏ったって、僕の心に溢れる血液は濁ったままだ。あの夏の風景がモノクロになっていく。形も、匂いも、感触も、もう二度と忘れないように。ずっと願う。彼女の言葉をなぞって、なぞった。
【No.879 夏あわく】
綺麗な絵画を、綺麗な写真を、綺麗な物語を、ふれたあとに彼氏のことを思い出す。どれだけ美しい言葉を飾ったって、私の体に流れる感情は淀んだままだ。あの夏の視界がアナログになっていく。音も、愁いも、色彩も、もう一度忘れられるように。そっと呪う。彼氏の記憶をなじって、なじった。
【No.880 亡き声】
「鈴虫の鳴き声が好き。他の虫も綺麗に鳴くようになったらいいのに」「でも、蜘蛛が鳴いたら嫌だろ」弟のからかいに彼女は「そうかも」と身震いする。「鳴くのも素敵なだけじゃないのね」そんなことはない。僕が亡くなった日の夜、人知れず泣いていた彼女の声は、とても美しかったのだから。
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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652