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140字小説 No.≠231‐235

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【No.≠231 兎月】
小学生のとき、学校でウサギのラビ太を飼っていた。飼育委員だった僕は一生懸命お世話したのに、近所に住む高校生に小屋から逃がされてしまった。あれから何十年が経ったのだろう。ふいに、ウサギの鳴き声を聞いた気がして夜空を見上げると、月には安らかに眠るラビ太の模様が浮かんでいた。

【No.≠232 少女終焉】
終末戦争が始まってから私は千年もの間、地下図書館に閉じ込められたままだった。私を造った博士は、永遠の命を手に入れることができたのだろうか。破損した左腕はケーブルが剥き出しになって、胸部の扉を開くと心臓の形をした動力炉が錆びている。私の瞳から、涙にも似た『何か』が流れた。

【No.≠233 樹海守の鳴く】
人生に疲れて樹海を彷徨う。木の間に多くのロープが括ってあった。遺書を用意して滝から飛び降りる。水底には同じ末路を辿った人間達が沈む。命を投げ捨てた者がいないか、樹海を守る鹿が僕を見つめる。大層な角を傍らに置く。憐れむように、弔うように、鹿の悲しい鳴き声が山の中に響いた。

【No.≠234 春凪】
サナトリウムから波の音を聞く。夏になれば本土で花火大会があるらしい。桜が散る。先生の話では、私の寿命はあと数ヶ月しかないそうだ。写真に映る恋人と目が合う。病気のことを言い出せずに私から別れを切り出した。夏になれば、彼と花火を見るはずだったのに。春が終わり、夏になれば――

【No.≠235 よすがを患う】
視力を失った私は、同棲中の彼女と手を繋いでいる間だけ景色を取り戻す。なのに、友達と遊びに行ったきり返信のない彼女を待ちながら、私は静かな夜をひとりで過ごした。繋ぐ未来が行方不明のまま、空っぽになった左手がさまよう。偽りの光に、見えないはずの目が眩んでは冷たい夜を患った。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652