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140字小説 No.-086‐090

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【No.-086 瞳の標本(藍煩い③)】
標本作りが得意な彼と夕凪公園に赴く。夜には天体観測で賑わう森林で、彼は愛おしそうに藍色の蝶を眺めていた。午後四時、ひぐらしが鳴く。亡くなったあとにも意味が残るなら、それは素敵なことなのかもしれない。どうか、私が死んだら体も、藍色の瞳も、全部全部。君の標本にしてください。

【No.-087 忘郷(藍煩い④)】
空き家となった実家を片付けるために、何十年も足を踏み入れなかった故郷へ戻る。小説家を夢見て飛び出した僕は、疎遠となっていた両親に最期まで会うことはなかった。何も得られないまま、明日も、将来も、人生も失ってしまう。午後五時、駅前の鐘が鳴る。帰ろう。帰る場所なんてないのに。

【No.-088 橙が沈む(藍煩い⑤)】
夕日の光が藍煩いの原因になると、根も葉もない噂が出回ったのはいつのころからだろう。別に信じてるわけじゃないけど、私の中学校生活の、そして人生最期の思い出作りだった。午後六時、仲の良い友人達と星見海岸に訪れる。夕日を壊すために、虹色のペットボトルロケットを空に打ち上げた。

【No.-089 味の記憶(藍煩い⑥)】
彼女と一緒にカレーを食べる。「私、二日目の方がもっと好き」ふと、僕に次の日が訪れないことに気付いて、彼女が口を噤む。「明日の夜も食べようね」慰めではない。僕特製のレシピは彼女が覚えているから、味の記憶は残り続ける。午後七時、最期の晩餐だ。「いただきます」「いただきます」

【No.-090 夢灯籠(藍煩い⑦)】
星見海岸で灯籠流しが催される。藍煩いで亡くなった犠牲者の魂を弔うために、親族や友人達が大勢集まった。灯籠の光が僕の藍色の瞳を暴き出す。性別、年齢、国籍。何もかも違っていいはずなのに、今では瞳の色で差別される。午後八時、みおつくしのように光る灯籠に、藍色の蝶が寄り添った。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652