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感傷140字小説まとめ⑪

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【No.916 福音】
「くろいとこふんだらじごくにおちるからね」子どもと手を繋ぎながら横断歩道を渡っていく。小さい足で一生懸命にジャンプしていた。服の下に隠れた青痣を思い返す度に、本当の親の元に返すべきなのか逡巡する。「あ、くろをふんだからじごくー!」明滅する信号に進むか、戻るかは、まだ――

【No.917 幸福論】
彼からもらった指輪を外す。左手の薬指についた跡が蜜月の証にも、後悔の枷にも思えた。幸せになりたかっただけなのに。愛されたかっただけなのに。ただ『それだけ』の共通点で私達は満たされていると思い込んでいた。『それだけ』でいいという願いが、そもそも傲慢な生き方なんて知らずに。

【No.919 不正交業】
歯列矯正で控えていたガムを、終わってからも噛んでいないことに気付く。瓶に詰めたノミが蓋を外しても飛び出さないように、私も条件付けされてしまったのだろう。禁煙か、コンプレックスの克服か。何のために始めたのか思い出せずにいた。綺麗になった歯並びを、いびつになった笑顔で隠す。

【No.921 朱夏】
赤ちゃんの泣き声に気付いて数学の参考書から顔を上げる。電車の中でお年寄りが母親に怒鳴ってみんなが目を伏せた。自分には関係ないと知らんぷりする赤の他人も、楽しそうにあの子と話す彼の小指に繋がった赤い糸も、全部全部、全部。見て見ぬ振りして。参考書の赤シートで隠してしまえば。

【No.923 陽光】
疲れた体で喫茶店に立ち寄る。メニュー表はなく、マスターが私の日常を挽いてサイフォンに入れた。「こだわって抽出すると格別になるんですよ」いわく、飲む人によって苦みや甘みが変わるらしい。丁寧に振り返ってみれば、些細な今だって幸せなのかもしれない。口に含む。私の人生の味は――

【No.925 晩年】
「玄冬、青春、朱夏、白秋と言って、人生を四季に当てはめた考え方があるそうよ。まるで、出世魚みたいね」金婚式を迎えても慎ましく、ブリの照り焼きを食べながら妻が微笑む。齢八十にも満たない若造の僕らは、今、どの季節にいるのだろう。記憶や、髪の色が、例え白くなっても。お前と――

【No.926 徒然銀河】
地球最後の日、流星群が降り注ぐ。空が綺麗に映える丘で、僕と彼女は終焉を眺めていた。星に三回願うと夢が叶うらしい。早口が不得意な彼女のために、半分ずつ声にする。二人の願いだ。二人で祈るのは構わないだろう。「生まれ変わっても」「一緒にいたい」祝福の光が、今、目の前で爆ぜた。

【No.928 逢、哀、愛。】
「形あるものに永遠はないよ」私の頭を撫でながら博士は横たわります。「では、愛に終わりはないのでしょうか?」機械人形の私は多くの死を看取りました。「そうだね。今は途切れているだけさ」だから、二度と逢えなくなっても哀しくありません。数千年後の未来にも、愛は繋がっているので。

【No.929 かわいそうだね】
主人公の力になれない脇役が役に立って、仲間から認められる展開が嫌いだった。結局、誰かの救いにならないと意味がないことを思い知らされてしまう。何か成し遂げなくても、迷惑ばかりかけても、一緒にいたいと願うのは自分勝手なのだろうか。今日も友達のために、母の財布からお金を盗む。

【No.-214 巡礼者】
鍵のかかった檻に小説や絵が届く。誰かの物語を丁寧に解いては飲み込んで、私の感じた味を嘘偽りなく言葉に直す。閉ざした世界の外は眩しい。鉄格子の間から感想を綴った紙飛行機を投げる。例え夢半ばで塵になっても、まっしろになっても。彼に伝えるために。彼女に見つけてもらうために。

【No.-215 ゆめいっぱい】
「ちびまる子ちゃんの食卓を囲む場面って、いつも一人足りない気がする」日曜の夜にアニメを観ながら彼女が呟く。幼少の頃から側にあった光景だから、自分も家族になった気分なのだろう。幸せそうにご飯を食べる姿を見てお腹が減る。憂鬱な月曜日も笑うために。手を合わせて、いただきます。

【No.-216 ありあまる富】
一緒に買ったペアリングを眺める。同じ趣味で付き合ったなら、接点を失えば終わってしまうのだろうか。それでも人生は、続く。不安を振り払うように、二つの指輪を重ねて永遠を象った。ぽんこつな魂だって、青臭くもなれない赤い春だって、自分にとってはありあまる富だ。どうか、良い旅を。

【No.-217 スリープウォーク】
私は晴れの日が嫌いだ。どんなに未来が暗くたって、上を向いて歩かなきゃいけない気分になる。俯いても泥濘に映る青空は見えるのに。私は私に自信が持てないから、いつか、根拠のない誰かの「大丈夫」に安心してしまう日が来るのだろうか。踏み出した足を止めて、解けてもいない靴紐を結ぶ。

【No.-218 花曇り】
花農家の私達は声の代わりに花言葉で想いを交わし合っていた。けれど、一つの花にいくつもの意味があるせいですれ違ってしまったのだろう。花言葉なんて誰かが作った勝手な祈りだ。私達もそれに倣う。最後の共同作業として、新品種の花に「貴方と出会わなきゃよかった」という願いを込めた。

【No.-219 信葉】
「信じたからな」が親父の口癖だった。夢を言い訳に大学を辞めたときも、一人暮らしは楽しいか聞かれたときも、言葉を濁す俺に頷いてくれたのに。『親だから』という信頼が鬱陶しくて、あの日は感情的になっただけなんだって。だから「死ねよクソ親父」なんて冗談、信じてほしくなかったよ。

【No.-220 クオリア】
「私だって少しくらい過去を見世物にして、オイシイ状態になったっていいじゃないか」彼女の台詞からも、表情からも、それが真実であることは容易く想像できた。同時に昏い傷を雨曝しにして、創作を穢すことが許せないようにも感じた。彼女の書く物語が、どうか、未練とならないように祈る。

【No.-222 行雲流水】
通勤電車の窓から覗く川がとても綺麗で、毎日「最期はここに飛び込もう」と考えていた。仕事に向かう足が動かなくなった日、初めて川を近くで見ると想像以上に汚らしい。こんなものを美しく思っていたことに苦笑するし、醜いものが誰かを生かすこともあると思えば、少しだけ元気が出てくる。

【No.-223 花を食む】
彩りのない部屋を添える為に、生花を飾るか迷ってしまう。枯れる前に捨てる事ができず、萎れていく様子を眺めながら、どっちつかずに毎日しにゆく花を眺めて生活する日が、いつか、必ず来ることなんて分かっているから。水差しの澱が剥がれた。想像で食む花が、仕様もない私の未来と重なる。

【No.-225 リィンカーネーション】
風鈴が咲く時期になると、私は亡き母の言葉を思い出す。「綺麗だけど摘み取ってはいけないよ。元は誰かの命だからね」母は縁側に座りながら、寂しそうに団扇で涼ませてくれた。親になった今、家の庭先で小さな風鈴を娘が揺らす。今年は多くの命が失われた。りりん。と、追悼の音が鳴り響く。

【No.-227 虹焦がす命】
人間は亡くなると傘に変化する。遺された者が涙で濡れないように、後悔で身を焦がさないように。あの日、豪雨による自然災害で多くの犠牲者が生まれた。夏になると故人の魂を弔うため、傘を一斉に飛ばす行事が行われる。色とりどりの傘がふわり浮かぶと、薄暗かった空に大きな虹が架かった。

【No.-228 人魚水葬】
人魚に恋した青年は海で暮らしたいと願います。美しい声も、鰭も、失うにはかけがえのないもの。ならば、代償を払うのは醜い自分の方。青年は魔女に祈り、感情を犠牲にして海に潜りました。人魚は悲しみます。同じ世界で生きられなくても、ありのままの青年と過ごせるだけで幸せだったのに。

【No.-229 少女琥珀】
少女琥珀展を鑑賞する。琥珀糖で模した少女は色鮮やかで、気味の悪いほど生々しかった。怒っている少女は赤、泣いている少女は青。幸せそうな少女は緑。感情が、命が、不透明な体に混ざっている気がした。会場を満たす甘い香りが饐えていく。そういえば、最近は行方不明者のニュースが多い。

【No.-230 息衝くような速さで】
誰もが当たり前にできることを『息するように』なんて例えるけど、私は昔から呼吸が下手だった。息を吸うのか、吐くのか、時々わからなくなって苦しくなる。生きる為の儀式を無自覚に行える人達が恨めしく、羨ましいと妬む。だから冬は嫌いだ。吐いた白い息が、濁った私の性根を染め上げる。

【No.-231 星天前路】
婚姻届は夫婦になるためのラブレターかもしれない。彼とは短冊に願って付き合えたから、入籍は七夕の日と決めていた。窓口預かりで受理は次の日になるけど。他人や家族じゃない今に不安を覚える。それでも、目が覚めれば天の川を超えられるはず。灯りを消して、運命の赤い短冊を握りしめた。

【No.-232 ザザ降り、ザザ鳴り。】
運動会のリレーでバトンを落としてから、私の心には雷雨が降り続く。乾いた地面を歩けば水音がして、生きづらさを感じる度に雷鳴が落ちる。雨なんか降ってないよ、雨なんか降ってないよ。そう言い聞かせても、あの日の後悔は止まないのだ。傘を差す癖が抜けない。雨なんか降っていないのに。

【No.-233 喝采】
大学時代、主役を務める演劇で浴びた拍手喝采が忘れられない。それから、呪いのようにぱちぱちと響く音を求め始めた。爆ぜる焚き火、弾ける綿菓子、部屋の家鳴り。人生を間違えなければ、僕は今でも主役でいられたのだろうか。パチンコを打つ音が拍手と重なって、未だ見せかけの輝きに縋る。

【No.-234 夢の粒】
散った夢の欠片はこんぺいとうになる。小説家、イラストレーター、美容師。粒は職業により色も、味も、大きさも千差万別だ。口に含むとパティシエになって洋菓子を作るイメージが膨らむ。私の諦めた夢も、誰かの救いになってほしい。もう一つ食べると懐かしい味がする。そうだ、私の夢は――

【No.-237 青春を描く】
砂浜にイーゼルを置いて、キャンバス代わりの海を眺めた。修学旅行中の高校生のために『青春』を描く。水彩絵の具でさざ波を、雲形定規で入道雲を現実に生み出す。どこかで風鈴が鳴った。私自身が美しくなくても、私の描いた物語が誰かの光になれたら。そう信じて、今日もまた絵筆をふるう。

【No.-238 さやかな、ささやか。】
「『さやかな』と『ささやか』って、言葉は似てるのに意味は正反対なのね」彼女が夜空を見ながら話す。「『サイレン』と『サイレント』もか」そう思うと不思議な気分だ。「あ、流れ星」ささやかな時間に、さやかな光が降り注ぐ。僕達の日々だって似てるけど、退屈とは程遠いのかもしれない。

【No.-239 凪晴るる】
家も学校も辛いとき、私は岬に住む魔女の元を訪れる。「昔は人魚だったけど、人間のせいで汚れた海を捨てて魔女になったのよ」お姉さんはいつも色んな話をしてくれた。庭に咲く風鈴のこと、散った夢は金平糖になること。「逃げてもいいなんて綺麗事だけどね、苦しくなったらいつでもおいで」

【No.-241 想い編む】
半年に一度、人類は選んだ一つ以外の言葉を忘れてしまう。その度に僕は『恋』を、彼女は『愛』をお互いに教え合う。好きだから一緒にいるのが『恋』で、嫌いだけど一緒にいたいのが『愛』だそうだ。言葉足らずで傷付けてしまうかもしれない。でも思い出せるならきっと僕達は大丈夫なはず。

【No.-242 在りし夏】
匂いの記憶と言うけれど、人が最後まで覚えている五感は嗅覚らしい。蚊取り線香の煙、夕立の香り、手持ち花火の匂い。幾許の年月を一緒に過ごしただろうか。病室で眠る妻の走馬灯が、僕との在りし夏であってほしいと願う。人生最期の日に思い出す妻の記憶が例え、薬品の臭いしかしなくても。

【No.-245 サマーレコード】
小学校の自由研究で『夏を壊そう』をテーマに、僕はペットボトルロケットを作った。大人になった今でも、病院沿いの砂浜に行くと思い出す。空に飛ばして、太陽を割って。届くはずなんてないのに。子どもとはいえ本気だった。彼の余命である夏を壊せば、友達を助けられると思っていたんだよ。

【No.-247 命浮かぶ】
私が落ち込んでいると祖母はシャボン玉を吹いてくれた。ストローから生まれた泡がぬいぐるみ達に弾けて、楽しそうに部屋を動き回る。今にして思えば、あれは祖母の命をおもちゃに込めていたのかもしれない。悲しむ母を余所に私は無邪気だった。歳以上に老いている、祖母の優しさも知らずに。

No.-248 熱を生む
呼吸がどれほど難しいことか、焦燥を堰くように海岸を走り出して気付く。私の幸せも、将来の夢も、喧嘩したあの子との関係も、今はまだ凪いでいるだけだ。陸風から海風へと変わる合間に佇む。息を吸って、澱を吐いて。水平線の向こうには必ず道があると願う。途切れても、風はまた吹くはず。

【No.-249 ふれる】
カラカラ軋む音に俯いた顔を上げると、老夫婦の押すベビーカーには赤ちゃんの人形が座っていた。一瞬、気色悪いと思った自分を呪う。偽物の光だからこそ、救われる人はきっといるはず。「どうか、抱っこしてあげてください」人形の体にふれる。僕の左手も作り物だけど、この温もりは確かだ。

【No.-250 静かな寄る辺】
深夜二時のファミレスはどこか寂しい。小説家になるのが夢で、時代に合わず筆と原稿用紙で物語を書いていた。有名になれば何者かになれると信じて。ふと、辺りを見回す。遅くまで働く店員さんも、長距離ドライバーも、誰かを救う何者かだ。昏い光かもしれない。だけど僕の小説も、きっと――

【No.-253 想い焦がれる】
昔、息子が私に白紙をくれた。炙り出しをすると『肩たたき券』の文字が滲んでくる。どうやら素直に渡すのが恥ずかしかったらしい。あの時は意地悪く笑ったっけ。なんて、いつまでも過去に縋るわけにはいかない。亡き息子の未練と手紙を燃やして、焦がす。例え、想いが浮かび上がらなくても。

【No.-254 六等星の瞬き】
今年の夏も海辺に色とりどりの傘が浮かぶ。元は亡くなった人が変化したものだ。ふと、青い星形の傘が私の側までやってくる。すぐに彼だとわかるのは、きっと、魂で繋がっているからなのだろう。涙が落ちる瞬間に傘が開く。私を慈しむようにくるりと回って、空に舞いながら悲しみと連れ立つ。

【No.-255 シ春期パノラマ】
いくつもの世界がパノラマのように流れ込む、思春期にだけ罹る症状があった。風鈴や傘に変化する魂、宝石を食むリス、海をたゆたう人魚。もう何年、私は病室で過ごしたのだろう。「またね」誰かの声が響く。繋がった手が離れる。死の間際に夢を見ていた。長い夢を、見ていたのかもしれない。

【No.≠238 ニーア】
雨風を凌げる場所もなく、寒さで震える私をあなたは保護してくれました。ご飯を与えて、何度も頭を撫でてくれます。初めてのぬくもりは愛しいですが、その優しさを失うことが不安で遠い街に走り出しました。もう二度と会えないあなたに向けて、私は身勝手にも「にー、にー」と鳴き暮れます。

【No.≠239 不惜身命】
魔女に願って不死となった代償に、私は恋を封印された。誰かを想う度に心臓が高鳴り死が迫る。恋を失ってまで得たいと思った命だけど、散りゆくあなたのためなら捧げても構わなかった。絶えるなら絶えてもいいと想いを告げる。横たわるあなたの側で、私も静かにまどろむ。今、呪いが解けた。

【No.≠240 涙色】
私の瞳は感情によって色が変わる。悲しいときは青色。悔しいときは緑色に。ある日、彼の浮気を知って鏡の前で泣きじゃくっていると、瞳から赤い涙が溢れてきた。拭っても我慢しても、袖を汚すばかりの私を見て彼はどう思うのだろう。悲しみや悔しさとも違うこの感情は一体なんだというのか。

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