140字小説 No.891‐895
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【No.891 式日】
蛇口から流れる水を水差しに入れるだけで、それが美しいものだと錯覚できる。いつからだろう。ミネラルウォーターが飲めなくなったのは。彼が寝付けない私の隣に座り、グラスから飲みかけの水を飲む。唇を重ねた。最低な夜に睡眠薬を流し込む水の味なんて、あなたは何も知らなくていいのに。
【No.892 命の時間】
進級して友達とクラスが変わる。「休み時間になったら顔を出すから」と約束したけど、席一つ違うだけで関係も薄くなる。些細なことで喧嘩してから、後悔する間もなく友達は自殺してしまった。なぜ仲直りできなかったのか。大人になった今でも、命の授業は続く。休み時間はまだやってこない。
【No.893 惰性的モラトリアム】
バイトに向かう度、近所のおばさんと出くわすのが嫌だった。四十歳にもなって実家暮らしを馬鹿にされた気分になる。私がレジ打ちするのを狙い、成人雑誌を買うにたにたとした中年を睨む。自分を棚に上げて、誰かを年齢の物差しでしか測れないことに気付いた午後、初めてバイトを逃げ出した。
【No.894 ブレーメン】
取り柄のない脇役が主人公を助ける展開が嫌いだ。結局、役に立たないと認められないことを優しく、残酷に現実を突き付ける。ネットでは絵が綺麗な人。文章が美しい人。顔が整った人をみんなが褒め称え合う。誰かを救えなくても、何もなくても、愛されたいと思うのは欺瞞と同じなのだろうか。
【No.895 未確停車】
電車で隣の人と話すのは何も思わないのに、誰かが電話をしていると苛立ってしまうのはなぜだろう。マナーとか常識とか、そういった曖昧なもので他人に嫌悪感を持ってしまう。なんとも悍ましい心情だと悟った瞬間、不規則な揺れが自分をどこに運ぶのか。終着点と進行方向を失って身震いする。
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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652