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140字小説 No.831‐835

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【No.831 種も仕掛けも】
祖母は昔から手品が得意だった。幼い私を喜ばせようとミカンを消したときは、驚きよりも好物がなくなったことに泣いたっけ。そんな思い出も、私の顔も、祖母は忘れている。きっと、自分自身に手品を仕掛けてしまったのだ。記憶を失う魔法を。実は夢でしたなんて、種明かしもされないままに。

【No.832 存在証明】
「お前の代わりはいくらでもいるんだから、お前一人だけがんばる必要もないんだぞ」上司が悪戯っぽく笑う。理解と優しさのある人だった。代わりがいるから、自分一人いなくても。そんな思いだったのだろうか。上司が自殺した日の事を今でも思い返す。僕にとっては、たった一人の存在だった。

【No.833 フローライト】
許すことが美徳で、認めることが美学なら、この世は醜いもので溢れていた。「海は青色で塗りなさい。それに――」右利きに矯正させようと伸ばした先生の手が、筆洗いバケツに当たって濡れた絵を思い出す。卒業アルバムに綴った将来は、正しく、正されて、描きたかった色を忘れたままでいる。

【No.834 アシンメトリー】
彼女との仲が悪くなったので修復師に依頼する。「残念ながら、不可能ですね」心をルーペで見つめる彼いわく、僕達の恋愛関係は壊れていないらしい。彼女はお金のために仕方なく付き合ったという。欠けてない関係は元に戻せない。最初から歪んだ形だったのを、ただ、正常だと思い込んでいた。

【No.835 プラナリア(露天帳簿⑥)】
仕事が嫌になって俯いていると、露天商のお姉さんが僕のクローンを売っていた。代わりにこいつを出勤させてやろう。後日、街には僕のクローンが何体も溢れていた。慌てて露天商の元へ向かうと僕が僕を買っている。「『自分の代わりに仕事してもらおう』という思考は、クローンも同じですよ」

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652