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140字小説 No.-206‐210

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【No.-206 烙苑】
病院まで間に合わず車の中で産まれた私は、家より車の中が心地よかったのかもしれない。借金で何もかも失って、車の中で暮らしていたこともある。小さな箱庭が、私にとっての全てだ。意識がまどろむ。息苦しくなる。終の住処は車の中だと決めていた。窓から射し込む光を纏って、このまま――

【No.-207 狼煙】
将来は森の中に食堂を開きたい。年輪が綺麗な切り株の椅子に、春には京錦の鯉のぼりを看板代わりに飾る。甥っ子が成人したときはおいしい料理を振る舞って、一緒にお酒を嗜めるように願う。歳を重ねても全自動で未来はやってこない。だからこそ諦めない理由が如く、手動で夢を切り拓くのだ。

【No.-208 不可逆】
相手を軽んじるほど深々と頭を下げられるし、嫌いでも仲良く話すことができた。悲しいときに笑って、平気じゃない日も大丈夫だとごまかせる。心と体が一致しなくなったのはいつからだろう。別人のように振舞えば楽でいられた。きっとこの生きにくさも、感情が合っていないだけだと思い込む。

【No.-209 流転-7.5m】
飛び込み台から言葉の水を眺める。文字のフォントは尖って、荒波立つ文章には棘があった。一歩、足を進み出さなければ傷付かずに済むだろう。穏やかな揺れの日を選ぶこともできる。だけど、澱みの奥底に沈んだ言葉はきっと美しいと信じて。性懲りもなく先端を踏み込む。今、流転に向かって——

【No.-210 コリドール】
十代最後の日には劇的なことが起こると思っていた。勤務先のスーパーで廃棄弁当をもらい、疲れた体で布団に寝転がる。みんな幸せになってほしいと願いながら自分は含めない。感情がねじれた回廊を彷徨っているみたいだ。新時代は未だ遠く。それでも人生は飽き止まず、愚直にも笑おう今日を。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652