140字小説 No.826‐830
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【No.826 白叙伝】
若くして活躍しているのを羨ましいと思わないが、若い内から同じ分野に触れていたことは羨ましく思う。もっと早く関わっていれば、もっと先に知っていれば。好きなものに多く向き合ってきた事実が何より悔しかった。嫉妬も、叱責も、失望も糧にして。今、白紙だった僕の0ページ目を始める。
【No.827 サンタマリア】
欲しくもない文房具を盗んだ手で、オルゴールのネジを回す。ぐずっていた娘がやわらかな楽曲に喜ぶ。無垢な子どもを抱きしめる感覚は、夫の首を絞めた感触と似ていて恐くなってしまう。昏い部屋にサイレンの音が差し込む。嫌いなことも、綺麗なことも、気味が悪いほどに、機械仕掛けなのだ。
【No.828 四色問題】
兄に忘れたお弁当箱を届けると、幼なじみの先輩を見つける。最後列の左端。教室は違うけど私の隣の席だった。あと一年、私の誕生日が早かったら。あと一年、先輩の誕生日が遅かったら。私達は隣同士の席になっていたのかな。家も、クラスも、関係も、隣じゃなくて一緒だったらいいのに。
【No.829 決着の3歩目】
おいしいのはフライドチキンか卵かけご飯か、ニワトリとヒヨコが揉めていた。飼育小屋の中で決闘になった2匹を大勢のハトが見守る。背中合わせに3歩進んだら、お互いの方を向いて毛弾を飛ばす。「1…2…」ハト達が息を呑む。「3!」勢いよく振り返り、相手の頭を狙って――「?」「?」
【No.830 POP SONG】
人生にトロフィー機能が追加された。特定の年齢に達したとき、テストで良い点を取ったとき。何かを成し遂げる度に実績が解除される。やり込みを目指すのもいいけれど、仕事でミスをした回数、失恋した数を見返せばそれすら勲章のように思える。たまには、つまづくのだって悪くはないのかも。
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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652