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140字小説 No.≠066‐070

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【No.≠066 秋の陰る】
「あ、タンポポだ」地面に蝉が這い蹲っていた。意識していないのか、意図してなのか、花を避けた彼女は代わりに蝉を踏みつけた。ジジ、ジジ、と鳴き声が消える。『秋が過ぎる速さで光は陰るの』遠い昔の、彼女の言葉を思い出す。長い夏が終わりに差し掛かり、すぐそこまで秋が迫っていた。

【No.≠067 祈りの羽】
私の全てを覆い隠すように、背中から翼が生えていた。飼い猫が爪で引っ掻くと微かな痛みが走る。感情に伴って翼は色と形を変えていった。両手を合わせて、祈るように布団の中で小さく丸まる。今はまだ這い蹲ることしかできない日々でも、いつか、この白い翼で羽ばたく日が来るように願った。

【No.≠068 機械の手】
目を覚ますと狭い空間にいた。イヌやネコが窮屈そうに閉じ込められている。長い間ここにいるのか、表情を失っていた。透明な壁の向こうでは巨人がにやにやと笑う。上空から機械の手が迫って私を掴む。穴に落とされた瞬間、私は巨人の声を聞いた。「やった! ひよこのぬいぐるみが取れた!」

【No.≠069 三等分の青春】
葵家は三姉妹だ。産まれた季節にあやかって姉が夏、私が秋、妹が冬と名付けられた。私達の暮らしは繊細で、ゆるやかで、鮮やかで、面倒で、騒がしくて、喧騒に負けないくらいの力強さがあった。名前のように青い春なんて存在しなかったけど、いつだって、私達は青春のど真ん中を生きていた。

【No.≠070 欝降りの歌】
目の前で女の子が車に轢かれる。晴れの日でも雨靴を履いている近所の子どもだ。いつも「る、る、る」とメロディーのない声で歌っていた。ふいに、ウイスキーとタバコに興じる生活保護の女を思い出す。「命は不平等なんだって。だから私は生きてんの」と笑っていた。命は平等なんて嘘だった。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652