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自薦140字小説まとめ⑬

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【No.-223 花を食む】
彩りのない部屋を添える為に、生花を飾るか迷ってしまう。枯れる前に捨てる事ができず、萎れていく様子を眺めながら、どっちつかずに毎日しにゆく花を眺めて生活する日が、いつか、必ず来ることなんて分かっているから。水差しの澱が剥がれた。想像で食む花が、仕様もない私の未来と重なる。

【No.-225 リィンカーネーション】
風鈴が咲く時期になると、私は亡き母の言葉を思い出す。「綺麗だけど摘み取ってはいけないよ。元は誰かの命だからね」母は縁側に座りながら、寂しそうに団扇で涼ませてくれた。親になった今、家の庭先で小さな風鈴を娘が揺らす。今年は多くの命が失われた。りりん。と、追悼の音が鳴り響く。

【No.-226 恋慕喫茶】
大学の後輩に告白するため高級喫茶店に訪れる。この緊張は大正浪漫あふれる内装のせいだろう。「僕と付き合ってください」嫌いなコーヒーを飲む手が震えた。後輩がカップに角砂糖を落とす。「苦さも、パンケーキも、不安も半分こ」声が上擦る。「幸せも、お会計も半分こです」優しく笑った。

【No.-227 虹焦がす命】
人間は亡くなると傘に変化する。遺された者が涙で濡れないように、後悔で身を焦がさないように。あの日、豪雨による自然災害で多くの犠牲者が生まれた。夏になると故人の魂を弔うため、傘を一斉に飛ばす行事が行われる。色とりどりの傘がふわり浮かぶと、薄暗かった空に大きな虹が架かった。

【No.-228 人魚水葬】
人魚に恋した青年は海で暮らしたいと願います。美しい声も、鰭も、失うにはかけがえのないもの。ならば、代償を払うのは醜い自分の方。青年は魔女に祈り、感情を犠牲にして海に潜りました。人魚は悲しみます。同じ世界で生きられなくても、ありのままの青年と過ごせるだけで幸せだったのに。

【No.-234 夢の粒】
散った夢の欠片はこんぺいとうになる。小説家、イラストレーター、美容師。粒は職業により色も、味も、大きさも千差万別だ。口に含むとパティシエになって洋菓子を作るイメージが膨らむ。私の諦めた夢も、誰かの救いになってほしい。もう一つ食べると懐かしい味がする。そうだ、私の夢は――

【No.-236 しによん!】
彼女のお団子頭がチョコミントアイスになっていた。どうやら食べたもので変わるらしい。エスカルゴなら紫陽花、おにぎりならサッカーボールといった具合に。疲れた顔で就活に向かう前、彼女がポンポンに変わった髪を揺らして応援してくれる。そういえば、昨日の夕ご飯はトンカツだったっけ。

【No.-237 青春を描く】
砂浜にイーゼルを置いて、キャンバス代わりの海を眺めた。修学旅行中の高校生のために『青春』を描く。水彩絵の具でさざ波を、雲形定規で入道雲を現実に生み出す。どこかで風鈴が鳴った。私自身が美しくなくても、私の描いた物語が誰かの光になれたら。そう信じて、今日もまた絵筆をふるう。

【No.-238 さやかな、ささやか。】
「『さやかな』と『ささやか』って、言葉は似てるのに意味は正反対なのね」彼女が夜空を見ながら話す。「『サイレン』と『サイレント』もか」そう思うと不思議な気分だ。「あ、流れ星」ささやかな時間に、さやかな光が降り注ぐ。僕達の日々だって似てるけど、退屈とは程遠いのかもしれない。

【No.-242 在りし夏】
匂いの記憶と言うけれど、人が最後まで覚えている五感は嗅覚らしい。蚊取り線香の煙、夕立の香り、手持ち花火の匂い。幾許の年月を一緒に過ごしただろうか。病室で眠る妻の走馬灯が、僕との在りし夏であってほしいと願う。人生最期の日に思い出す妻の記憶が例え、薬品の臭いしかしなくても。

【No.-243 トマトマト】
カロリーを気にする僕のために、小学生の息子が料理を作ってくれた。ご飯をカリフラワーに、鶏肉ではなく大豆ミートを使ったオムライスは格別においしい。お皿まではみ出した『けんこうになりますように』という無邪気な願いが沁みる。まぁ、ケチャップの量が多いのは見なかったことにして。

【No.-245 サマーレコード】
小学校の自由研究で『夏を壊そう』をテーマに、僕はペットボトルロケットを作った。大人になった今でも、病院沿いの砂浜に行くと思い出す。空に飛ばして、太陽を割って。届くはずなんてないのに。子どもとはいえ本気だった。彼の余命である夏を壊せば、友達を助けられると思っていたんだよ。

【No.-246 青と夏】
バス停で雨宿りしながら俯く。昔は泣き虫なので『雨女ちゃん』と馬鹿にされていた。そのせいか天気の悪い日は憂鬱になる。でも泣いたあとの笑顔はとびきり素敵だって、幼なじみの男の子が慰めてくれたっけ。「あ」バスから彼が降りてきた。「お」雨が止む。私の心と空に、大きな虹が架かる。

【No.-247 命浮かぶ】
私が落ち込んでいると祖母はシャボン玉を吹いてくれた。ストローから生まれた泡がぬいぐるみ達に弾けて、楽しそうに部屋を動き回る。今にして思えば、あれは祖母の命をおもちゃに込めていたのかもしれない。悲しむ母を余所に私は無邪気だった。歳以上に老いている、祖母の優しさも知らずに。

【No.-249 ふれる】
カラカラ軋む音に俯いた顔を上げると、老夫婦の押すベビーカーには赤ちゃんの人形が座っていた。一瞬、気色悪いと思った自分を呪う。偽物の光だからこそ、救われる人はきっといるはず。「どうか、抱っこしてあげてください」人形の体にふれる。僕の左手も作り物だけど、この温もりは確かだ。

【No.-251 リスの恩返し】
ドングリの代わりに鉱物を溜めるリスが稀にいるという。頬袋パンパンに詰め込んだ鉱物は、リスの唾液や前歯で削る過程で色んな宝石に変わって、愛情を注いだ飼い主には一個プレゼントしてくれる。アクアマリン、スピネル、フォスフォフィライト。何が生まれるかはお楽しみのリスの恩返しだ。

【No.-254 六等星の瞬き】
今年の夏も海辺に色とりどりの傘が浮かぶ。元は亡くなった人が変化したものだ。ふと、青い星形の傘が私の側までやってくる。すぐに彼だとわかるのは、きっと、魂で繋がっているからなのだろう。涙が落ちる瞬間に傘が開く。私を慈しむようにくるりと回って、空に舞いながら悲しみと連れ立つ。

【No.-255 シ春期パノラマ】
いくつもの世界がパノラマのように流れ込む、思春期にだけ罹る症状があった。風鈴や傘に変化する魂、宝石を食むリス、海をたゆたう人魚。もう何年、私は病室で過ごしたのだろう。「またね」誰かの声が響く。繋がった手が離れる。死の間際に夢を見ていた。長い夢を、見ていたのかもしれない。

【No.932 生命賛歌】
「森でクジラの化石が見つかったとするね」波打ち際で彼女が話す。「ある人は『大昔は海だったんだな』と思うし、ある人は『地上で生きるクジラがいたのか』と思うし。要は捉え方次第なのよ」「どういう意味?」「私が人魚で、あなたが人間なのは些末な話ってこと」彼女の美しい鰭が揺れた。

【No.934 浅瀬に仇波】
彼女が砂に文字を書く。「言葉は波なんだって」だから、表記揺れが起こる。意味は移り変わる。「些細でも心がさざめくし、穏やかな気持ちにもなるの」波が砂の文字に隠した願いを攫う。「私ね、あなたのこと本当は――」海になれたら心の揺れも、彼女が笑ったその意味も気付けたのだろうか。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652